・・・僕はかなり逐語的にその報告を訳しておきましたから、下に大略を掲げることにしましょう。ただし括弧の中にあるのは僕自身の加えた註釈なのです。―― 詩人トック君の幽霊に関する報告。 わが心霊学協会は先般自殺したる詩人トック君の旧居にして現・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ 譚はテエブルに頬杖をつき、そろそろ呂律の怪しい舌にこう僕へ話しかけた。「うん、通訳してくれ。」「好いか? 逐語訳だよ。わたしは喜んでわたしの愛する………黄老爺の血を味わいます。………」 僕は体の震えるのを感じた。それは僕の膝を・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・長崎上筑後町の一向宗の寺に、勧善寺と云うのがある。そこへ二十歳前後の若い僧が来て、棒を指南していると云うのである。一行は又長崎行の舟に乗った。 長崎に着いたのは十一月八日の朝である。舟引地町の紙屋と云う家に泊って、町年寄福田某に尋人の事・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫