・・・は日本的なるものとして又人間の知性の完全無欠な形として、封建時代の義理人情を随喜渇仰する小説であって、常識ある者を驚かしたが、当時にあっては、彼の復古主義も情勢の在りように従って「紋章」の中に茶道礼讚として萌芽を表しているに止った。 か・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・時代の知性の特色は帰趨を失った知識人の不安であるとされ、不安を語らざる文学、混迷と否定と懐疑の色を漉して現実を見ない文学は、時代の精神に鈍感な馬鹿者か公式主義者の文学という風になった。そして、この不安の文学の主唱者たちは、不安をその解決の方・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そして、この場合教養と呼ばれるのは、今日ひととおり教養があるとか知性的だとか云われる文学作品の真の生活的・文学的価値を、再評価してゆく生活的・社会的洞察であり、文学的教養と云う意味は、或る作家の作品中の文句を会話の中に自由にとりいれて来るこ・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 今日我々がうけついでいる文化、感情、知性は、社会の歴史に制せられてその本質に様々の矛盾、撞着、蒙昧をもっていることは認めなければならない事実である。科学者が科学を見る態度にもこれをおのずから反映している。特に、今日の科学では未だ現実の・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・従って、近代のヨーロッパの知性をうけいれている文学精神は、日本の社会感覚、文学感覚との間に、忍耐をもって埋めてゆかなければならないくいちがいを生じている、というようなことについて、こんにちでは知っていないものもないし、自覚していないものもな・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ワグナーがオペラをプロシア皇帝の治世の具として自薦したとき、はっきりそのことを云った。それでニーチェは、ワグナーと絶交したのだった。〔一九五一年一月〕 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・こういう社会的真実にたいする追求の怠慢は、知性そのものの不純潔性である。 私自身の生活の経験を考えてみて、身辺のたれそれの生活を考えてみて、ハウスキーパーの「制度」などは決してなかった。ハウスキーパーという名のもとに女性を全く非人間的に・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
・・・高低のあるこの辺の地勢は風景画への興味を動かすのである。ほんとうに、ことしの新緑の美しかったこと。地べたの中にアルカリが多くなっていたせいか、新緑は、いつもの年よりも遙かに透明ですがすがしく、エメラルド・グリーンに輝いたフランスの絵の樹木の・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 明け暮れのたつきは小役人として過しており、芸術に向う心では釣月軒として自分と周囲の生活とを眺めている宗房の目に映る寛永年代の江戸は、家光の治世で、貿易のことがはじまり、大名旗本の経済は一面の逸遊の風潮とともに益々逼迫しつつあった。米価・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・事件があり、代議士立候補のための、進んでは大臣になるための政見を発表し、しかも時々バルザックは一八二五年の破局にもこりず熱病にかかったように大仕掛の企業欲にとりつかれ、サルジニアの銀鉱採掘事業や、或る地勢を利用して十万のパイナップル栽培計画・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫