・・・ありがもりもりと巣から出るように、地底から、気味悪い迫力をもって、社会の表面へ出ようとするのを感ぜずにはいられません。 もう一つ、これと連想するものに、児童の問題があります。 長い間、児童等の生活は、その責任と義務を、家庭と学校・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・鉱車は、地底に這っている二本のレールを伝って、きし/\軋りながら移動した。 窮屈な坑道の荒い岩の肌から水滴がしたゝり落ちている。市三は、刀で斬られるように頸すじを脅かされつゝ奥へ進んだ。彼は親爺に代って運搬夫になった。そして、細い、たゆ・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・もしも丸の内の他の建物もだんだんに地底の第三紀層の堅固な基礎の上に樹立される日が来れば、自然に建物と建物の各層相互の交通のために地下道路が縦横に貫通するようになるかもしれない。そうなれば丸の内の地図はもはや一枚では足りなくなって地下各層の交・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・更に「地底の墓」「落日の饗宴」とを読み、いくつかの「新人論」を瞥見し、私は、文学に、何ぞこの封建風な徒弟気質ぞ、と感じ、更に、そのような苦衷、あるいは卑屈に似た状態におとしめられていることに対して、ヒューマニズムは、先ず、文学的インテリゲン・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・その後この作家が「地底の歌」という新聞小説の連載によってやくざの世界の描き手となったことは注目される。作者は日本の暴力、やくざの世界が市民生活の民主化を妨げ、労働者の生命をおびやかすものとして権力に利用されていることについて具体的な知識をも・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
出典:青空文庫