・・・ まず海苔が出て、お君がちょっと酌をして立った跡で、ちびりちびり飲んでいると二、三品は揃って、そこへお貞が相手に出て来た。「お独りではお寂しかろ、婆々アでもお相手致しましょう」「結構です、まア一杯」と、僕は盃をさした。 婆さ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 増田博士は胡坐を掻いて、大きい剛い目の目尻に皺を寄せて、ちびりちびり飲んでいる。抜け上がった額の下に光っている白目勝の目は頗る剛い。それに皺を寄せて笑っている処がひどく優しい。この矛盾が博士の顔に一種の滑稽を生ずる。それで誰でも博士の・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・ 主人は苦笑をして、酒をちびりちびり飲んでいる。 通訳あがりの男は、何か思い出して舌舐ずりをした。「お蔭で我々が久し振に大牢の味いに有り附いたのだ。酒は幾らでも飲ませてくれたし、あの時位僕は愉快だった事は無いよ。なんにしろ、兵站には・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫