・・・私はドイツでも、堂々としたジーメンスの工場を見たが、その工場の内に働く者の幸福を高めるための技術を養う工場学校があり、しかも十八歳までは六時間労働、十六歳以下は四時間と、ちゃんと法律によって定め、その賃銀の払われる労働時間のうちに教育のため・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・こんな事はこれまでもあったが、女中達が先きに寝て、暫く立ってから目が醒めて見れば、いつもお蝶はちゃんと来て寝ていたのである。それが今夜は二時を過ぎたかと思うのに、まだ床に戻っていない。何と云う理由もなく、お金はそれが直ぐに気になった。どうも・・・ 森鴎外 「心中」
・・・翌日わたくしが急いでオペラ座へ往って見ますと、お母あ様と御夫婦とでちゃんと桟敷にいらっしゃったのですね。 女。そこで。 男。それをあなた平気でわたくしにお聞きになるのですか。 女。ではどんなにして伺えばよろしいのでしょう。 ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・他家んとこへ来るなら来るで、ちゃんとして来い。」「そんなに大っきな声出さんでも、ええわして。」とお留は云った。「いいや、声ででも嚇しつけんと、こんな奴、何さらすかしれん。」「阿呆なこと云うてんと、置いといてやらえな。」「こん・・・ 横光利一 「南北」
・・・ 私が女中に案内されて客間に通った時には、漱石はもうちゃんとそこにすわっていた。書斎と反対の側の中央に入り口があって、その前が主人の座であった。私はそれと向き合った席に書斎をうしろにしてすわった。ほかには客はなかった。 この最初の訪・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫