・・・ 斎藤国警長官の進退をめぐって政府と公安委員会が対立し、公安委員会は斎藤氏の適格を主張し、ついに、政府は静観となった。この事件も、下山氏の死にからんで強行されようとした何かの政界の失敗であり、この失敗そのものが、逆に下山氏の死の微妙ない・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・ 今の場合、わざわざ拾って来られたところでどうしようもない魚籠だの釣竿だのを、一つ一つ若者の前へ並べたてながら、彼らは財布と銀時計――若者も内心ではどうなったろうと思っていた――をこっそり牒し合わせて、見付からないことにしてしまった。・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
十二月二十六日の午後、毎日新聞社から電話がかかって来た。そして、経済安定本部長官和田博雄が、二十三年度の勤労者のための経済白書を出したから、それについて意見をききたいということだった。わたしは経済について専門の知識はない。・・・ 宮本百合子 「ほうき一本」
・・・その心もちをたいへん巧みに捕えて、片山哲氏は首相になると早々街頭録音に出かけるし、新橋のきわで安井都長官が芋苗を売る手伝いをするし、大変親しみ易い政府がはじまったようです。小包米とか赤ん坊の牛乳、姙産婦用ラードの配給、これは根本的な食糧問題・・・ 宮本百合子 「本当の愛嬌ということ」
・・・往来を晴着を着た娘達が通り、釣竿をかついだ子供が走り、がっしりとした百姓たちが、店の連中、そこにかたまっている群を斜に見、黙って縁なし帽やフェルト帽をあげながら通って行った。その夕方、ロマーシはどこかへか出て行った。小屋に独りいたゴーリキイ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・そのあわただしい中に、地方長官の威勢の大きいことを味わって、意気揚々としているのである。 閭は前日に下役のものに言っておいて、今朝は早く起きて、天台県の国清寺をさして出かけることにした。これは長安にいたときから、台州に着いたら早速往こう・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・ その友人は岡本保三と言って、後に内務省の役人になり、樺太庁の長官のすぐ下の役などをやった。明治三十九年の三月に中学を卒業して、初めて東京に出てくる時にも一緒の汽車であった。中央大学の予備科に一、二か月席を置いたのも一緒であった。それが・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫