・・・それが科学的に詳細であり、現実らしい確実さがあればある程、読者はその底にちらつくうそへの興味を刺戟される。舟橋氏が、この「新胎」というある意味での現代図絵に、そういう面白さも加味しようと意識されたのであれば、やはりその面白さの試みは、作品の・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・その道の果はこの庭この間の嵐で 松の落葉の散りしいたこの小径はよろこびの小径夕方、六時が半分すぎた頃この道から おかしな二輪車があらわれる 草の上だから音もなく樹間にちらつく俥夫の白シャツはわたしの う・・・ 宮本百合子 「よろこびはその道から」
・・・ ピカデリー広場でイルミネーションがちらつく時刻である。郊外からロンドン市へ向う街道という街道の上を自動車があらゆる型を並べて疾走した。そして月曜日の夕刊新聞は左の報告と記事とをのせるだろう。週末の自動車事故何件。死傷何人。先週より・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・原の広さ、天の大きさ、風の強さ、草の高さ、いずれも恐ろしいほどに苛めしくて、人家はどこかすこしも見えず、時々ははるか対方の方を馳せて行く馬の影がちらつくばかり、夕暮の淋しさはだんだんと脳を噛んで来る。「宿るところもおじゃらぬのう」「今宵は野・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫