・・・のうちに稚くひびいている主題は追求され展開されてゆくであろう。 伸子一人の問題としてではなく、この四分の一世紀間に、日本の進歩的な精神が当面しなければならなかった多難な歴史の課題にふれながら。「伸子」と「二つの庭」との間に二十数年がけみ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ 政治というと、私たちの生活に遠いことのようだけれども、こうして、衣服一つとして追求してもやはり結局は社会的な意味をもっている。人民全体が、どう食べ、どう住み、どう着ているのか、そしてどんな教育をされているかということは、ひとの政治問題・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・火野にあってはただ一つその感銘を追求し、人間の生命というものの尊厳にたって事態を検討してみるだけでさえ、彼の人間および作家としての後半生は、今日のごときものとならなかったであろう。人間としての不正直さのためか、意識した悪よりも悪い弱さのため・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・なぜなら、昔から、人類がやっと文字を発明した時代から、真個に人間の生きている意味、子から子へと絶えない愛を以てまもり、懐きあこがれる、真理の追求の為に、身を捧げて人生に対した少数の人々は、決して、「わたしは人生につかれた、暮しがつらい」とは・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・例えば作品や技法の上で新しいものを追求しようという熱心さと、その新しいものの質の探求や新しさの発生の根源を人類の生活の歴史の流れの只中から見出そうとするような思想の規模との間に、具体的な矛盾があるとも思われます。芸術至上主義ととなりあわせて・・・ 宮本百合子 「期待と切望」
・・・ 乏しい故の中央集権が、日本各地方の文化にそれぞれ独特な、ゆたかな展開を可能としなかった上に、一層わるいことは、その状態のまま文化面でも出版業のような利潤追求の企業はどんどん成長して行ったことである。 どんな国でも、都会人口よりは、・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・したがって、一層これ以前の時期から、野暮に正直に不遇な日本の民主精神と、平和への精神が追求される必要が痛感される。 宮本百合子 「「現代日本小説大系」刊行委員会への希望」
・・・ あなた方は、みんなお若い方たちでいらっしゃるし、毎日生きていらっしゃる限り希望というものを、どこかに追求していらっしゃる。家庭で食べもののこまかいことをいう時もございましょうけれども究極するところは、やっぱり幸福に生きて、幸福に働いて・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・女のひとが、特に幸福というものを何か波瀾のそとのもの、悲しみの外のものと固定させた形で追求していることについて疑問が生じたとき、私の心にひきつづいて起った問いはそれであった。女のひとはどんなに文学を読むのだろうか、と。何故なら本当のいい文学・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・その癖又それを得れば成功で、失えば失敗だというような処までは追求しなかったのである。 しかしこの或物が父に無いということだけは、花房も疾くに気が付いて、初めは父がつまらない、内容の無い生活をしているように思って、それは老人だからだ、老人・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫