・・・合奏より夢の続きが肝心じゃ。――画から抜けだした女の顔は……」とばかりで口ごもる。「描けども成らず、描けども成らず」と丸き男は調子をとりて軽く銀椀を叩く。葛餅を獲たる蟻はこの響きに度を失して菓子椀の中を右左りへ馳け廻る。「蟻の夢が醒・・・ 夏目漱石 「一夜」
書物に於ける装幀の趣味は、絵画に於ける額縁や表装と同じく、一つの明白な芸術の「続き」ではないか。彼の画面に対して、あんなにも透視的の奥行きをあたへたり、適度の明暗を反映させたり、よつて以てそれを空間から切りぬき、一つの落付・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・船員が極り切って着ている、続きの菜っ葉服が、矢っ張り私の唯一の衣類であった。 私は半月余り前、フランテンの欧洲航路を終えて帰った許りの所だった。船は、ドックに入っていた。 私は大分飲んでいた。時は蒸し暑くて、埃っぽい七月下旬の夕方、・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・二度目の夫を持ってからも、わたくしはやはり前の夢の続きを見ていました。 この夢があるので、わたくしは多少良心に責められたこともあります。しかしわたくしはあなたに誓います。わたくしはあなたが田舎の夫が妻に要求するような要求をなさることがあ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・という結句を弱からしむ。よそありきしつつ帰ればさびしげになりてひをけのすわりをる哉 句法のたるみたる様、西行の歌に似たり。「さびしげになりて」という続きも拙く「すわりをるかな」のたるみたるは論なし。「なりて」の語をやめて代り・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・そら、さっきの続きをさ。どうして話して呉れないの。」 ガラスは私の息ですっかり曇りました。 四羽の美しい蜂雀さえまるでぼんやり見えたのです。私はとうとう泣きだしました。 なぜって第一あの美しい蜂雀がたった今まできれいな銀の糸のよ・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
・・・ 七月からこっち、体の工合が良くない続きなので、余計寒がりに、「かんしゃく持」になった。 茶っぽく青い樫の梢から見える、高あく澄んだ青空をながめると、変なほど雲がない。 夏中見あきるほど見せつけられた彼の白雲は、まあどこへ行った・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・停留場までの道は狭い町家続きで、通る時に主人の挨拶をする店は大抵極まっている。そこは気を附けて通るのである。近所には木村に好意を表していて、挨拶などをするものと、冷澹で知らない顔をしているものとがある。敵対の感じを持っているものはないらしい・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・その低い屋根の下には露店が続き、軽い玩具や金物が溢れ返って光っていた。群集は高い街々の円錐の縁から下って来て集まった。彼はきょろきょろしながら新鮮な空気を吸いに泥溝の岸に拡っている露店の青物市場へ行くのである。そこでは時ならぬ菜園がアセチリ・・・ 横光利一 「街の底」
・・・一日じゅう歩いて行っても、立派な畑に覆われた土地のみが続き、住民たちは土産の織物で作った華やかな衣服をまとっている。さらに南の方、コンゴー王国に行って見ると、「絹やびろうど」の着物を着た住民があふれるほど住んでいる。そうして大きい、よく組織・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫