・・・そして雪が積もる上に、まだ降っていました。 真吉は、お母さんの知り合いの呉服店を思い出しました。そこで堤燈を借りてゆこうと立ち寄りました。ふいに、真吉が帰ってきたので、呉服店のおかみさんは、おどろいて、「まあ、どうして帰っていらした・・・ 小川未明 「真吉とお母さん」
・・・雪がたくさんに積もると、老先生も、冬の間だけ、学校に寄宿されることもありました。 先生は、小田が忠実であって、信用のおける人物であることは、とうから見ていられたので、彼に、学問をさしたら、ますます善い人間になると思われたから、このごろ、・・・ 小川未明 「空晴れて」
・・・二人は毛布の中で抱き合わんばかりにして、サクサクと積もる雪を踏みながら、私はほとんど夢ごこちになって寒さも忘れ、木村とはろくろく口もきかずに帰りました。帰ってどうしたか、聖書でも読んだか、賛美歌でも歌ったか、みな忘れてしまいました。ただ以上・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・ 池の氷が張りつめた上に、雪が積もると、その表面におもしろい紋のような模様ができる。これはドイツで Dampflcher と称するものだそうで、この成因はあまり明らかでないらしい。田中阿歌麿氏著、「諏訪湖の研究」上編七一六ページにこれに・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・ハース氏の船室は後甲板の上にあるが、そこでは黒の帽子を一日おくと白く塵が積もると言っていた。どうもアフリカの内地から来る非常に細かい砂塵らしい。 午後乗り組みの帰休兵が運動競技をやった。綱引きやら闘鶏――これは二人が帆桁の上へ向かい合い・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 沓の代はたられて百舌鳥の声悲し 馬の尾をたばねてくゝる薄かな 菅笠のそろふて動く芒かな 駄句積もるほどに峠までは来りたり。前面忽ち見る海水盆の如く大島初島皆手の届くばかりに近く朝霧の晴間より一握りほどの小岩さえ・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
出典:青空文庫