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・・・ 千世子の声はいつもよりつやつやしく力に満ちて白い雲の多い空の高い処へ消えて行く様だった。 篤は窓からのり出して木の幹の間から彼方をすかし見た。 木蓮の木の下に籐椅子をすえて千世子が居るのを見つけた。 ゆるく縞の着物の衿・・・
宮本百合子
「千世子(三)」
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・・・老人、もう九十以上の年で髪も眉も皆白くてつやつやしいおだやかな様子で真白な毛のついた足一っぱいの上着をつけて首から小さい銀の十字架をつるす。王の親の様な心持で只やたらに可愛と云う気持。王 月があまり美くしいので都娘にフト出・・・
宮本百合子
「胚胎(二幕四場)」