・・・ 蓴菜が搦んだようにみえたが、上へ引く雫とともに、つるつると辷って、もう何にもなかった。「鮹の燐火、退散だ」 それみろ、と何か早や、勝ち誇った気構えして、蘆の穂を頬摺りに、と弓杖をついた処は可かったが、同時に目の着く潮のさし口。・・・ 泉鏡花 「海の使者」
・・・ で、上靴を穿かせて、つるつるする広い取着の二階へ導いたのであるが、そこから、も一ツつかつかと階子段を上って行くので、連の男は一段踏掛けながら慌しく云った。「三階か。」「へい、四階でございます。」と横に開いて揉手をする。「そ・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・そら、どうです、つるつるのつるつると、鮮かなもんでげしょう。」「何だか危ッかしいわね。」 と少し膝を浮かしながら、手元を覗いて憂慮しそうに、動かす顔が、鉄瓶の湯気の陽炎に薄絹を掛けつつ、宗吉の目に、ちらちら、ちらちら。「大丈夫、・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・裏縁に引いた山清水に……西瓜は驕りだ、和尚さん、小僧には内証らしく冷して置いた、紫陽花の影の映る、青い心太をつるつる突出して、芥子と、お京さん、好なお転婆をいって、山門を入った勢だからね。……その勢だから……向った本堂の横式台、あの高い処に・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・といって、空色の着物を着た子供は例の高い岩の上へ、つるつるとはい上がりましたが、はやその姿は見えませんでした。 明くる日の昼ごろ、正雄さんは、海辺へいってみますと、いつのまにやら、昨日見た空色の着物を着た子供がきていまして、「や、失・・・ 小川未明 「海の少年」
・・・察しのつく通りアッパッパで、それも黒門市場などで行商人が道端にひろげて売っているつるつるのポプリンの布地だった。なお黒いセルロイドのバンドをしめていた。いかにも町の女房めいて見えた。胸を洗っているところを見ると、肺を病んでいるのだろうか、痩・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・ おまけに結婚後十日目には、頭髪がすっかり抜けてしまい、つるつるの頭になったのでカツラを被った。時々人のいない所でカツラを取って何時間も掛って埃を払っている――そんな姿を見ると、つくづく嫌気がさして来たある夜、どう魔がさしたのかポン引に・・・ 織田作之助 「世相」
・・・と叔父は、磨りちびてつるつるした縁側に腰を下して、おきのに訊ねた。「あれを今、学校をやめさして、働きに出しても、そんなに銭はとれず、そうすりゃ、あれの代になっても、また一生頭が上がらずに、貧乏たれで暮さにゃならんせに、今、ちいと物入れて・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・銃は、その手袋の指の間から蝋をなすりつけたようにつるつる滑り落ちた。パルチザンはそこへつけこんできた。 兵士達は、始終過激派を追っかけ、家宅捜索をしたり、武器を押収したり、夜半に叩き起され、やにわに武装を整えて応援に出かけたりしなければ・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・ トシエは、ひょっと、何かの拍子に身体にふれると、顔だけでなく、かくれた、どこの部分でも、きめの細かいつるつるした女だった。髪も、眉も、黒く濃い。唇は紅をつけたように赤かった。耳が白くて恰好がよかった。眼は鈴のように丸く、張りがあった。・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
出典:青空文庫