・・・これがおそらくまた逆に狂人というものを定義する一つの箇条であろう。 科学というものの内容も、よく考えてみるとやはり結局は「言葉」である。もっとも普通の世間の人の口にする科学という語の包括する漠然とした概念の中には、たとえばラジオとか飛行・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・たとえば自分がかつて提議したような統計的方法でも、少なくも一つの試みとして試みなければならないと思う。上記の諸例はそういう方法を試みるであろう場合に必要な非常に多量な材料の中の二三の例として数えられるべきものであろうと思う。 もし許さる・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・上のほうを細かく裂いて、それを両側から平面に押し広げてその上に紙をはり、その紙は日月の部分蝕のような形にして、手もとに近いほうの割り竹を透かした、そういうものが、少なくもわれわれの子供時代からの団扇の定義のようなもので、それ以外のものは言わ・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・これらの概念と定義とが方則の云い表わしと切り離し難きはこのためなり。物理的自然現象を限定すべき条件等がすべてこれらの有限なる独立変数にて代表され得るや否やは別問題として、現在の物理学的科学の程度において、従来の方法によりて予報をなし得る範囲・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・しかしきょうこのごろ日本でいわゆるジャーナリズムという言葉には、これ以外にいろいろ複雑な意味や、余味や、後味や、またニュアンスやがあってなかなか簡単に定義しひと口に説明することはできないようである。人に聞いてみても人によっていろいろと多少は・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・人間は火を使用する動物なりという定義とほぼ同等に化粧する動物なりという定義もできるかもしれない。そうだとすると、男も鉄漿黒々とつけていた日本の昔は今よりももっと人間のこの特権を充分に発揮していたことになるかもしれない。 十五・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 水道がこんなぐあいだと、うちでも一つ井戸を掘らなければなるまいという提議が夕飯の膳で持ち出された。しかしおそらくこの際同じような事を考える人も多数にあるだろう、従って当分は井戸掘りの威勢が強くてとてもわれわれの所へは手が回らないかもし・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・その後ウェストミンスター・アベーに記念の標石を納めようという提議が大学総長や王立協会会長などの間に持出され、その資金が募集された。標石の上の方には横顔を刻したメダリオンが付いている。レーリーの私淑したと思わるるトーマス・ヤングの記念標と丁度・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・話は余談に入るが、独逸の哲学者が概念を作って定義を作ったのであります。しかし巡査の概念として白い服を着てサーベルをさしているときめると一面には巡査が和服で兵児帯のこともあるから概念できめてしまうと窮屈になる。定義できめてしまっては世の中の事・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・開化とはどんなものだと煎じつめて聞き糺されて見ると、今まで互に了解し得たとばかり考えていた言葉の意味が存外喰違っていたりあるいはもってのほかに漠然と曖昧であったりするのはよく有る事だから私はまず開化の定義からきめてかかりたいのです。 も・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫