・・・動物学者は白い烏を見た以上は烏は黒いものなりとの定義を変ずる必要を認めねばならぬごとく、批評家もまた古来の法則に遵わざる、また過去の作中より挙げ尽したる評価的条項以外の条項を有する文辞に接せぬとは限らぬ。これに接したるとき、白い烏を烏と認む・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・綜合というのは、これに反し定義、要請、公理等の過程によって結論を証明する、いわゆる幾何学的方法である。而して彼は彼の『省察録』において専ら分析的方法を取ったという。何となれば、幾何学においては、その根本概念が感官的直観と一致するが故に、それ・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
人物の善悪を定めんには我に極美なかるべからず。小説の是非を評せんには我に定義なかる可らず。されば今書生気質の批評をせんにも予め主人の小説本義を御風聴して置かねばならず。本義などという者は到底面白きものならねば読むお方にも・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・それらの運動は単純に家長的な立場から見られている女らしさの定義に反対するというだけではなくて、本当の女の心情の発育、表現、向上の欲求をも伴い、その可能を社会生活の条件のうちに増して行こうとするものであった。社会形成の推移の過程にあらわれて来・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・第一次ヨーロッパ大戦後に出来た国際連盟の世界労働問題の専門部では、日本の労働者のおかれている条件は全く植民地労働の条件だと定義された。つまり世界労働賃金平均の半分から、三分の一の賃金で日本の労働者は働いていた。しかもその世界的にみると植民地・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・フランスはカソッリク的な純潔の現実的な定義に関して。 ゴールスワアジーの小説に「聖者の道行」という小説がある。第一次大戦の前後に書かれた作品で、イギリスの人たちが、十九世紀からもちつづけて来た家庭、結婚についての形式的な習慣に、新しく深・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・一九三〇年の秋の新経済年度から、文学研究会は大衆の生産経済計画に対する理解と、それを充実する熱心を、工場新聞、壁新聞をとおして、あらゆる文学的表現で鼓舞してゆくことにあると定義した。 このラップの指導方針は、プロレタリア文学の新しい交代・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ その決議文の中に、こういう大衆からの提議があった。一、作家たちはもっと大衆にわかりやすい文学的言葉をつかってくれ。二、作品の筋書、または未完成な下書きでもいい、作家はそれを工場クラブなどの一般集会で読んで、みんなの意見や忠告を・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・広く人間の社会が創造した一切のものをこめて文化という場合もありそれよりせまく内容を定義して、風俗、習慣から教育、法律、道徳、哲学、科学、芸術、宗教、言語、などを文化という場合があり、私どもが普通文化という場合多く後者の内容でいっていると思う・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・今日、プロレタリア文学のための集団といわずに、なぜ民主主義文学という定義をするのであろうか。はっきり、プロレタリア文学、といってしまったらいいではないか、と。一種の皮肉をふくませたニュアンスでいわれた。 日本にプロレタリア文学運動が起り・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
出典:青空文庫