・・・ 新しいリアリズムの提唱で、過去の主観的なリアリズムから客観的な現実把握の求められたことは、日本文学の発展の為に抹殺されることの出来ない歴史の歩み出しであるが、「階級的主観に相当するものを現実の中に発見する」という表現も、創作方法の問題・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・しかし、文学的要因にふれ得ずに、純文学の復興を叫んだ作家たちは同じ誤りを犯しつつ、不安の文学を提唱したのであった。 深田久彌のように、作品の上ではある簡勁さを狙っている作家も、この問題に対しては、自分が日常生活ではスキーなどへ出かけつつ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・では、この作者によって一二年前提唱された能動精神、行動主義の今日の姿として、実力養成を名とする現実への妥協、一般的父性の歓喜というようなものが主流としてあらわれて来ているのである。 青野季吉氏が、近頃『文学界』を中心としていわれている政・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・こうして、人民戦線の提唱のとき、もう近代の民主的主張をひっこめて、非政治的に、非社会的にそれを提案した日本の一部のインテリゲンツィアは、その後ひきつづく人間復興という文化上の提唱でも、全く骨ぬきの、口先弁巧に陥らないわけにはゆかなかった。何・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・会員の顔ぶれとして、林房雄、浅野晃、北原白秋、保田与重郎、中河与一、倉田百三等、この一、二年来の新日本主義的提唱とともに既に顕著な傾向性を示すと共に一般からおのずからなる定評を与えられている諸氏以外に国文学その他の分野では一応は誰しも社会的・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・そして、いきなりその踊りの真中を目がけて踏み出そうとすると、今までは、なごやかに低唱していた樫の木精が、一どきに ギワーツク、ギワーツク、カットンロー、カットンローローワラーラー……と歌い出し、彼方の霧の底から、微かな ハッハッハッ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
ありふれた従来の日本文学史をみると、明治三十年代に写生文学というものをはじめて提唱した文学者として正岡子規、高浜虚子や『ホトトギス』派のことは出て来るが、長塚節のことはとりたてて触れられていない。 明治十二年に茨城県の・・・ 宮本百合子 「「土」と当時の写実文学」
・・・従って社会主義的リアリズムの問題が文学における階級性の消滅を意味するものであるように語られ、ひきつづき人民戦線の提唱された時も、先刻中野さんが報告でふれたように、この階級的基盤をぼやかしたため、日本の反ファシズムの文学運動は、フランスのよう・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・そして社会主義的リアリズムの創作方法が提唱された。日本ではこの社会主義的リアリズムの創作方法に対する解釈を、全く芸術における階級性の抹殺という方向で行った。そして日本のプロレタリア文化、文学運動の「政治主義」を批判する口実とした。社会主・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・プロレタリア文学の領域には、前後して社会主義的リアリズムが提唱され、創作方法組織方法に関する猛烈な自己批判がまき起されていたのであったが、討論は十分新しい課題を正当に把握しきらないうちに、前年からしばしば弾圧を蒙っていた十年来のプロレタリア・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫