小豆島にいて、たまに高松へ行くと気分の転換があって、胸がすツとする。それほど変化のない日々がこの田舎ではくりかえされている。しかし汽車に乗って丸亀や坂出の方へ行き一日歩きくたぶれて夕方汽船で小豆島へ帰ってくると、やっぱり安・・・ 黒島伝治 「四季とその折々」
・・・「中隊を止めて、方向転換をやらせましょうか。」 しかし、その瞬間、パッと煙が上った。そして程近いところから発射の音がひびいた。「お――い、お――い」 患者が看護人を呼ぶように、力のない、救を求めるような、如何にも上官から呼び・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・たいていの人は、この戦争は無意味だと考えるようになった。転換。敵は米英という事になった。 × ジリ貧という言葉を、大本営の将軍たちは、大まじめで教えていた。ユウモアのつもりでもないらしい。しかし私はその言葉を、笑いを・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・から離れることが出来ず、きれいに気分を転換させて別の事を書くなんて鮮やかな芸当はおぼつかなく、あれこれ考え迷った末に、やはりこのたびは「右大臣実朝」の事でも書くより他に仕方がない、いや、実朝というその人に就いては、れいの三百枚くらいの見当で・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・再び、あの悲壮らしい厳粛らしい悪夢に酔わされるなんて事は絶対に無くなったようですが、しかしその小さい音は、私の脳髄の金的を射貫いてしまったものか、それ以後げんざいまで続いて、私は実に異様な、いまわしい癲癇持ちみたいな男になりました。 と・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・六、彼の病気。癲癇ではないか。(肉体に一つの刺七、彼が約束を守らぬということ。 その他、到れり尽せりの人身攻撃を受けたようである。 今官一君が、いま、パウロの事を書いているのを知り、私も一夜、手垢の附いた聖書を取り出して・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・佐野君は話題の転換をこころみた。「出征したのよ。」「誰が?」「わしの甥ですよ。」じいさんが答えた。「きのう出発しました。わしは、飲みすぎて、ここへ泊ってしまいました。」まぶしそうな表情であった。「それは、おめでとう。」佐野君・・・ 太宰治 「令嬢アユ」
・・・銀座で草木染めが展観されデパートで手織り木綿が陳列されるという現象がその前兆であるかもわからないのである。そうして、鋼鉄製あるいはジュラルミン製の糸車や手機が家庭婦人の少なくも一つの手慰みとして使用されるようなことが将来絶対にあり得ないとい・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・ 第一にはカットからカット、場面から場面への転換の呼吸がいい。たとえばおつたと茂兵衛とが二階と下でかけ合いの対話をするところでも、ほんのわずかな呼吸の相違でたまらなく退屈になるはずのがいっこう退屈しないで見ていられるのはこの編集の呼吸の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ここの気分の急角度の転換もよくできている。 モーリスがシャトーの玄関をはいってから、人けのない広間をうろつきまた駆け回る場面の伴奏も抑揚変化が割合によくできていて人を飽きさせない。 医者が姫君を診察するとき、心臓の鼓動をかたどるチン・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
出典:青空文庫