・・・松本治一郎氏の天皇制に対するたたかいとパージがよくその消息を告げている。 今日の大学は、どのようなアカデミアであり、アカデミズムをもっているだろうか。ことあたらしく観察するまでもなく、大学法案に関する問題、レッド・パージに対する各大学の・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・ ファシズムというと、わたしたちはすぐ戦争中のままの形で超国家的な大川周明の理論や、憲兵の横暴や、軍部、検事局その他人民を抑圧した天皇制の機構全体を頭にうかべて、なんとなしその全体に体当りで抵抗するのがファシズムへの抵抗という感じをもっ・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ あっちこっちのテーブルで知らない者同士が他の土地の天候などきき合っていた。 夜、日本茶を入れてのむのに、車掌のところへ行ってさゆいりのコップを借りたら年上の、党員ではない方の車掌がもしあまったら日本茶を呉れと行った。 ――あな・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・一九三三年の佐野、鍋山の転向を筆頭とする大腐敗の徴候は、一九三二年三月のプロレタリア文化団体への弾圧以後、次第に日和見的な態度として文学団体の中へもあらわれて来ていたことの証拠である。「一連の非プロレタリア的作品」に対する自己批判として・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・に歓声をあげていた情況は、まざまざとうつされている。天皇制の「非常時」専制があんまり非人間的で苦しく、重圧にたえることに疲れたプロレタリア作家のある部分も「自由な自意識の確立」に魅惑された。この当時の状態をよむ人は計らず太宰治の生涯と文学と・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・一九四一年一月からはじまった第二回の執筆禁止は、一九四五年八月十五日、日本の侵略的な天皇制の軍事権力が無条件降伏をするまで、五年の間つづいた。 中断されたこの時期に、評論集としては、『昼夜随筆』『明日への精神』『文学の進路』などが出版さ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・松や杉は落付いているのに恐ろしい灰色雲の下で竹がざわめくこと――このような天候の時、一人ぼっちでこの近傍によくある深い細道ばかりの竹藪を通ったら、どんなに神経が動乱するだろう。ドーッと風が吹きつける。高さ三十尺もある孟宗竹の藪が一時に靡く。・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・過去十数年の間、ひどい時期には、この赤茶色の本は、たとえ一冊でも、徳川時代の禁書のように天皇制権力の目からかくされた。そして、かくされればかくされるほど、それは人々の生活の奥へもぐり、現実によってその理論の真実をたしかめられつつ思想の底にし・・・ 宮本百合子 「生きている古典」
・・・でしょうが極東裁判で天皇が責任をもたないということを明瞭にされて大変によろこんだのは誰だったでしょう、国民はそれをよくしっている。 私達常識人からみると、これは一公人として無能力であったことを世界に証明してもらってありがたいということで・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・これは一九三三年六月に佐野学、鍋山貞親を先頭とする「転向」の濁流の渦巻きとともにあらわれた。その有様のあさましさは今日の想像しにくい毒気をまきちらした。 もとより、一九三一――三年間の、日本におけるプロレタリア文化・芸術運動の方針が、そ・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
出典:青空文庫