・・・悪い天候の後には必ず晴れた日が来るという確信を固く持っていなければなりません。愛する娘たち、私はその希望を抱いてあなた方を固く抱きしめます。」 刻々パリの危険が迫ってきた。キュリー夫人は貴重な一グラムを、安全なボルドー市へ移すことにきめ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・一方、人であって他の動物ではない天皇というものが、全く特殊な立場に固定され、その地位は世襲であり、一代にしろ華族というものが存在するのは、どういう矛盾であろうか。 更に、この条項を眺めていると、私たちの心には、まざまざと先頃厚生大臣から・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・当時大逆事件と呼ばれたテロリストのまったく小規模な天皇制への反抗があらわれ、幸徳秋水などが死刑に処せられた。自由民権を、欽定憲法によってそらした権力は、この一つの小規模な、未熟な、社会主義思想のあらわれを、できるだけおそろしく、できるだけ悪・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・人も知る天皇主義者である林房雄は、宇野浩二というその人なりのリアリストが、その人なりのリアリズムで天皇とその周囲の雰囲気をなみの人間の目やすから観察し、描き出したのを、文学のために生活そのものをたねにする私小説作家気質と罵った。吉田健一の「・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・そのほかわれわれが考えなければならないことは、今の憲法草案には天皇は議会を解散させることができるとなっています。そうすると私共がどんなに良心的によい代議士を選んでも、たったひとりの人が議会を解散するといって、それを書いた紙をもって捧げて読め・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・ きょうは体によくない天候でしたが御気分はいかがだったでしょう。皮膚がひやっとしていて汗がじっとり出る。今も出ている。八十度一寸出ています。月夜だったが今は霧が漂っている。湿気が多いのですね。『二葉亭全集』をよんだら扉に「ロシア文学は意・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 当時のこのようなプロレタリア文化・文学運動が佐野・鍋山の転向のあおりによって息の根をとめられた一九三三―三四年ごろ、プロレタリア文化・文学の組織に属していたすべてのものが、検事局製の運動の自己批判というものを押しつけられた。それは従来・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 全く、彼等の天候に支配されることといったら、私以上の鋭さである。紅雀、じゅうしまつ、きんぱら、文鳥などが一つがい、二つがいずついる。少し空が曇り、北風でも吹くと、元気な文鳥以外のものは、皆声も立てず、止り木の上にじっとかたまって、時雨・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・その他代表的な作品があった。転向文学という独特な通称がおこったほど、当時は過去を描いた作品がプロレタリア作家によって発表されたのであったが、その一貫した特徴は、文化運動を通じての活動によって法律の制裁をも受けた当事者たちの箇人的な意味での自・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ます小ブルジョアの無気力を助長するような自嘲、自己嫌悪を吹きこみ、労働者の側からはその現象をさながら動かすことのできないインテリゲンチアの特性であるかのように愚弄するような社会的空気がかもされている。転向の問題などもその一つの現れであろう。・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
出典:青空文庫