・・・これは、火の起源の話ですが、プロメシュースという若者が人間の生活に火が必要だと考え、天上の神様の火を盗んでまいりました。人間が火を得たということは人間の社会の発達のために、大きな歴史であったわけですが、それを、ギリシャ神話では、プロメシュー・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・そして天女がかえってから、伯龍は暫く女房をめとろうとしなかった、と昔の菊池寛らしく、天上的なものへの諷刺を語っているのである。 菊池寛によってかかれた天女が、男の肉情をみたすことだけは知っていたというのは、何と皮肉なようなことだろう。菊・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・軽くあしらっていると、それがかねがね清少納言の讚嘆をあつめていて地位も名声も高い美男の殿上人であったので清少納言は少からずうろたえる。その殿上人は、女の人は寝起きの顔がことの外美しいと聞いていたから見に来たのですよ。帝がいらしたうちからここ・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・花房の父があの家をがらくたと一しょに買い取った時、天井裏から長さ三尺ばかりの細長い箱が出た。蓋に御鋪物と書いてある。御鋪物とは将軍の鋪物である。今は花房の家で、その箱に掛物が入れてある。 火事にも逢わずに、だいぶ久しく立っている家と見え・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・と、彼女は、天井に沿っている店の缶詰棚へ乱れかかる煙の下から、「宝船じゃ、宝船じゃ。」と云いながら秋三が一人の乞食を連れて這入って来るのが眼に留まった。「やかまし、何じゃ。」と彼女は云った。「伯母やん、結構なもんが着いたぞ、喜び・・・ 横光利一 「南北」
・・・やがて薄暗いような大きい御殿へ来て、辺の立派なのに肝を潰し、語らえばどこまでもひびき渡りそうな天井を見ても、おっかなく、ヒョット殿さまが出ていらしッたらどうしようと、おそるおそる徳蔵おじの手をしっかり握りながら、テカテカする梯子段を登り、長・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・七歳の時にはさらに阿波の国司がこのことを聞いて、目代から玉王を取り上げ、傍を離さず愛育したが、十歳の時、みかどがこれを御覧じて、殿上に召され、ことのほか寵愛された。十七の時にはもう国司の宣旨が下った。ところが筑紫へ赴任する前に、ある日前栽で・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫