・・・およそこれらのごく普通な現象も、我々をしてかの強権に対する自由討究を始めしむる動機たる性質はもっているに違いない。しかり、むしろ本来においては我々はすでにすでにその自由討究を始めているべきはずなのである。にもかかわらず実際においては、幸か不・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・また問いこそその討究を真剣ならしめる推進機である。いかに問うかということ、その問い方の大いさ、深さ、強さ、細かさがやがてその解答のそれらを決定する条件である。故に倫理学の書をまだ一ページもひるがえさぬ先きに、倫理的な問いが研究者の胸裡にわだ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 次にある価値を実現せしめることが、それ自らには善でも悪でもないというカントの考えは、価値が平等であるときには正しいが、実質的価値には等級がある。したがって意欲の対象たる価値そのものに即した善悪が存在する。より高い価値を実現する行為はよ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・これに比べれば恋愛の社会的基礎の討究さえも第二義的というべきだ。ましてすでに結婚後の壮年期に達したるものの恋愛論は、もはや恋愛とは呼べない情事的、享楽的漁色的材料から帰納されたものが多いのであって、青年学生の恋愛観にとっては眉に唾すべきもの・・・ 倉田百三 「学生と生活」
一 源作の息子が市の中学校の入学試験を受けに行っているという噂が、村中にひろまった。源作は、村の貧しい、等級割一戸前も持っていない自作農だった。地主や、醤油屋の坊っちゃん達なら、東京の大学へ入っても、当然で・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・ハンディキャップの数で等級別に並べてあるそうだが、やはり上手な人の数が少なくて、上手でない人の数が多いから不思議である。黒板に競技の得点表のようなものが書いてある。一等から十等まで賞が出ている。これなら楽しみが多いことであろう。賞品は次の日・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・皮膚の色で人種の等級をきめようとするのが一つ。試験の成績やメンタルテストで人材登用のスケールをきめようとするのが一つ。経済関係の見地だけから社会制度を決定しようとするのもその一つであろう。 これは考えものである。・・・ 寺田寅彦 「猿の顔」
・・・単に糸を引き切る場合ならば簡単なれども、地殻のごとき場合には破壊の起り方には種々の等級あるべし。破壊がただ一回に終らず、数回の段階的変化によるとすれば、これらの推移中に歪みの変化は複雑に起り、場合によりては毎回地震の強度は微弱なる事もあるべ・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・浅間観測所の水上理学士に聞いたところでは、この日の爆発は四月二十日の大爆発以来起こった多数の小爆発の中でその強度の等級にしてまず十番目くらいのものだそうである。そのくらいの小爆発であったせいでもあろうが、自分のこの現象に対する感じはむしろ単・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・ いわゆるスモークボールを飛ばして打者を眩惑する名投手グローブの投球の秘術もやはり主として手首にあるという説を近ごろある人から聞いた。真偽は別として、それは力学的にもきわめて理解しやすいことだと思われる。 中学時代に少しばかり居合い・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
出典:青空文庫