・・・概して言えば東洋の美術文学は消極的美に傾き、西洋の美術文学は積極的美に傾く。もし時代をもって言えば国の東西を問わず、上世には消極的美多く後世には積極的美多し。されば唐時代の文学より悟入したる芭蕉は俳句の上に消極の意匠を用うること多く、従って・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・けれども元来きものというものは、東洋風に寒さをしのぐという考も勿論ですが、一方また、カーライルの云う通り、装飾が第一なので結局その人にあった相当のものをきちんとつけているのが一等ですから、私は一向何とも思いませんでした。実際きものは自分のた・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 携帯口糧のように整理された文化の遺産は、時にとって運ぶに便利であろうけれども、骨格逞しく精神たかく、半野生的東洋に光を注ぐ未来の担いてを養うにはそれだけで十分とは云い切れまいと思える。 三代目ということは、日本の川柳で極めてリアル・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・栄さん結婚十五年というので、何婚式になるんだろうと当用日記のうしろを見たら、これまで生れ月の宝石だの結婚記念などのあった欄が、すっかり「ス・フの知識」に変っていた。○ キュリー夫人伝の話が出る。確に近頃では興味深く且つ感動的な本であった・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・で非組織的な小市民的反抗を自然発生的に示した、明治のブルジョア官僚=官員はほとんどことごとく階級層においては革命的農民と対立した地主的勢力の取巻き志士団のくずれであったこと、故にひろく衆をあつめる人材登用なるものも、実質的には地主的勢力によ・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・ 西洋事情や輿地誌略の盛んに行われていた時代に人となって、翻訳書で当用を弁ずることが出来、華族仲間で口が利かれる程度に、自分を養成しただけの子爵は、精神上の事には、朱子の註に拠って論語を講釈するのを聞いたより外、なんの智識もないのだが、・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 琥珀のような顔から、サントオレアの花のような青い目が覗いている。永遠の驚を以て自然を覗いている。 唇だけがほのかに赤い。 黒の縁を取った鼠色の洋服を着ている。 東洋で生れた西洋人の子か。それとも相の子か。 第八の娘は裳・・・ 森鴎外 「杯」
・・・「閣下、これは東洋の墨をお用いにならなければなりません」 この時から、ナポレオンの腹の上には、東洋の墨が田虫の輪郭に従って、黒々と大きな地図を描き出した。しかし、ナポレオンの田虫は西班牙とはちがっていた。彼の爪が勃々たる雄図をもって・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・これは恐らく二千年の歴史を持った東洋画の伝統がしからしめるところであって、この特長を活用するところに日本画家の誇りも存するのであろう。洋画家の理想画や歴史画が幻想の不足のために滑稽に堕している間に、日本画家がこの方面である程度の成功を見せて・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫