・・・天地は重箱の中を附木で境ッたようになッてたまるものか。兎角コチンコチンコセコセとした奴らは市区改正の話しを聞くと直に日本が四角の国でないから残念だなどと馬鹿馬鹿しい事を考えるのサ。白痴が羊羹を切るように世界の事が料理されてたまるものか。元来・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・そんな気持ちから、とかく心も落ちつかなかった。 ある日も私は次郎と連れだって、麻布笄町から高樹町あたりをさんざんさがし回ったあげく、住み心地のよさそうな借家も見当たらずじまいに、むなしく植木坂のほうへ帰って行った。いつでもあの坂の上・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・おげんは女らしい字を書いたが、とかく手が震えて、これまでめったに筆も持たなかった。書いて見れば、書けて、その弟にやる葉書を自分で眺めても、すこしも手の震えたような跡のないことは彼女の心にもうれしかった。九月を迎えるように成ってからは、一層心・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・気の弱い、情に溺れ易い、好紳士に限って、とかく、太くたくましいステッキを振りまわして歩きたがるのと同断である。大隅君は、野蛮な人ではない。厳父は朝鮮の、某大学の教授である。ハイカラな家庭のようである。大隅君は独り息子であるから、ずいぶん可愛・・・ 太宰治 「佳日」
・・・藤十郎が、こんなひどい目に遇うとは、思いも設けなかった事でした。とかく、むかしの伝説どおりには行かないものです。「何しるでえ!」には、おどろきました。インスピレエションも何もあったものではありません。これでは藤十郎のほうで、くやしく恥ずかし・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・どうもそれにしても、ポルジイは余り所嫌わずにそれを連れ歩くようではあるが、それは兎角そうなり易い習だと見れば見られる。しかしドリスを伯爵夫人にするとなると、それは身分不相応の行為である。一大不幸である。どうにかして妨害せねばならぬ。 さ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・へ矢つぎ早に受け込んで、そして一々感服する方がとかく主になってしまって、何かしらしみじみと「胸」に滲み込んでくるような感じが容易には起りにくい。 どうもみんな単にうまい絵を描く事ばかり骨を折っているのではないかという疑いが起って来る。そ・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・この方法はとかくいろいろな失策や困難をひき起こしやすい。またいわゆる名所旧跡などのすぐ前を通りながら知らずに見のがしてしまったりするのは有りがちな事である。これは危険の多いヘテロドックスのやり方である。これはうっかり一般の人にすすめる事ので・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・の「兎角」に通じなくない。兎の角ではどうにも手に合わない。 ドイツの noch(=nun auch) が日本語の naho に似ている。イタリアの eppure は日本の「ヤッパリ」と同意義である。 因果関係はわからなくても・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・時々小説のような物を書いて雑誌へ出す事もあるが、兎角の評判もないようである。自分の小説が何かに出ると、方々の雑誌屋の店先で小説月評といったような欄をあさって見るが、いつでも失望するにきまっていた。 根津辺の汚い下宿屋で極めて不規則な生活・・・ 寺田寅彦 「まじょりか皿」
出典:青空文庫