・・・ スポンと栓を抜く、件の咳を一つすると、これと同時に、鼻が尖り、眉が引釣り、額の皺が縊れるかと凹むや、眼が光る。……歯が鳴り、舌が滑に赤くなって、滔々として弁舌鋭く、不思議に魔界の消息を洩す――これを聞いたものは、親たちも、祖父祖母も、・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・…… 頤骨が尖り、頬がこけ、無性髯がざらざらと疎く黄味を帯び、その蒼黒い面色の、鈎鼻が尖って、ツンと隆く、小鼻ばかり光沢があって蝋色に白い。眦が釣り、目が鋭く、血の筋が走って、そのヘルメット帽の深い下には、すべての形容について、角が生え・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ K君は病と共に精神が鋭く尖り、その夜は影がほんとうに「見えるもの」になったのだと思われます。肩が現われ、頸が顕われ、微かな眩暈のごときものを覚えると共に、「気配」のなかからついに頭が見えはじめ、そしてある瞬間が過ぎて、K君の魂は月光の・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・その足さきはまるで釘抜きのように尖り黒い診察鞄もけむりのように消えたのです。 ひなげしはみんなあっけにとられてぽかっとそらをながめています。 ひのきがそこで云いました。「もう一足でおまえたちみんな頭をばりばり食われるとこだった。・・・ 宮沢賢治 「ひのきとひなげし」
出典:青空文庫