・・・とか、「我が身命を愛さず唯惜しむ無上道」とか、「得意淡然失意泰然」とかいう辞句は時利あらず、いかような羽目にたちいたろうともわがこころに愧じるところなく、確信ゆるがずという文句である。「あら尊と音なく散りし桜花」という東條英機の芭蕉もじりの・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・世界の民主主義発達史のなかの特異な一頁である。 宮本百合子 「兄と弟」
・・・こに手がかりを見出し、ほんのちょっとでもこの現実をましな方に向けるような意志をもって生きて行く、それが生であり『集団行進』が人間のそのような喜び、悲しみ、憤りを盛っているからこそ、既成の所謂歌壇に対し特異な価値を主張し得るのであると信じます・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・ 何もこの人が書かなくてもと思える小説ということは、題材として特異な経験がそこにないというのではなくて、ありふれたような事象でもありふれなく生き貫く個々の文学精神が萎靡してしまっているということにほかならない。その人をして小説をかかしめ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・日本に於ける作家の社会的立場の特異性、貧弱さは、このことにも充分に現われているのである。 岸田国士氏等によっても、文学及び作家の真の発展のために文壇が今は妨げとなっていることが言われている。これまでの狭い職業組合的な文壇が、個々の作家に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・これらの作品の題材の特異性、特異性を活かすにふさわしい陰影の濃い粘りづよい執拗な筆致等は、主人公の良心の表現においても、当時の文壇的風潮をなしていた行為性、逆流の中に突立つ身構えへの憧憬、ニイチェ的な孤高、心理追求、ドストイェフスキー的なる・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・中にも弥一右衛門の二男弥五兵衛は鎗が得意で、又七郎も同じ技を嗜むところから、親しい中で広言をし合って、「お手前が上手でもそれがしにはかなうまい」、「いやそれがしがなんでお手前に負けよう」などと言っていた。 そこで先代の殿様の病中に、弥一・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・殊に彼はルイザを娶ってから彼に皇帝の重きを与えた彼の最も得意とする外征の手腕を、まだ一度も彼女に見せたことがなかった。 ナポレオン・ボナパルトのこの大遠征の規模作戦の雄大さは、彼の全生涯を通じて最も荘厳華麗を極めていた。彼は国内の三十万・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・これがデュウゼをして半狂のヒステリカルな女を得意とせしめたのである。 デュウゼを見た多くの人はその芸を芸術としては見なかった。苦痛のために烈しく悩んでいる女が、感覚を失って悲鳴をあげているとしか見えない。恐ろしい現実そのものなのである。・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・ここに偶像礼拝と密接に相関する芸術製作の特異な例があるのである。芸術鑑賞がその根源を製作者の内生に発するごとく、偶像礼拝もまたその根源を偶像製作者の内生に発する。我々は祖先の内のこの製作者を、もっともっと尊敬しなければならない。 芸術家・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫