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・・・……当時は奈良の伯母御前の御許に侍り。……おろそかなるべき事にはあらねど、かすかなる住居推し量り給え。……さてもこの三とせまで、いかに御心強く、有とも無とも承わらざるらん。……とくとく御上り候え。恋しとも恋し。ゆかしともゆかし。……あなかし・・・
芥川竜之介
「俊寛」
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・・・いまだにこの老人のひしがれた胸をとくとく打ち鳴らし、そのこけた頬をあからめさせるのは、酔いどれることと、ちがった女を眺めながらあくなき空想をめぐらすことと、二つであった。いや、その二つの思い出である。ひしがれた胸、こけた頬、それは嘘でなかっ・・・
太宰治
「逆行」