・・・ 話がついとんだところへ外れてしまいましたから、再び元へ引き返して筋の立つように云いますと、つまりこうなるのです。 あなたがたは立派な学校に入って、立派な先生から始終指導を受けていらっしゃる、またその方々の専門的もしくは一般的の講義・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・なめくじさん。とんだことになりましたね。」 なめくじが泣きそうになって、「蛙さん。さよ……。」と云ったときもう舌がとけました。雨蛙はひどく笑いながら「さよならと云いたかったのでしょう。本当にさよならさよなら。暗い細路を通って向う・・・ 宮沢賢治 「蜘蛛となめくじと狸」
・・・ ねずみ捕りは、とんだ疑いを受けたので、一日ぷんぷんおこっていました。夜になりました。ツェねずみが出て来て、さも大儀らしく言いました。「あああ、毎日ここまでやって来るのも、並みたいていのこっちゃない。それにごちそうといったら、せいぜ・・・ 宮沢賢治 「ツェねずみ」
・・・さて今度はとんだ災難で定めしびっくりなさったでしょう。」 チュンセ童子が申しました。「これはお語誠に恐れ入ります。私共はもう天上にも帰れませんしできます事ならこちらで何なりみなさまのお役に立ちたいと存じます。」 王が云いました。・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・「これはどうもとんだ失礼をいたしました。あなたのおなりがあんまりせがれそっくりなもんですから。」「いいえ。どう致しまして。私は今度はじめてムムネの市に出る処です。」「まあ、そうでしたか。うちのせがれも丁度あなたと同じ年ころでした・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・精女 マア、――何と云う事でございましたろう、とんだ失礼を、――御ゆるし下さいませ。しとやかなおちついた様子で云う。そしてそのまんま行きすぎ様とする。第二の精霊 マア、一寸まって下され。今もお主の噂をして居ったのじゃ・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・「それがね、あの河崎屋のじいさま、ほんにいやなおやじだよ、けさ吉さに、もうけんかはやめたらよかッぺ、隣の安田でも馬鹿だちゅうて笑ってるなんぞといいましたんだって。とんだ恨でも買ったらなじょにしてくれるんだか。――今晩だけお邪魔でもとめて・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ けれども、しずかに考えてみると、この好き、きらいの感情は、よほど吟味してかからないと、とんだ私たちの不幸であると思います。 共産党が、戦争を間違ったことであると主張したとき、戦争気分に煽られた人々は、たしかにその意見を、きらいだ、・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・ 芸術や恋愛が、階級性ぬきのどこやら超現実的なもののように感じられているとしたら、とんだ間違いです。 一人の女が小ブルジョア的な人道主義、偸安主義の生活を何かの必然的動機ですて、プロレタリア解放のために一つの役割をもって生活するよう・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
・・・私ははらはらしてどうするかと見ていると、「これはまア、とんだ失礼をいたしまして、」 と、伯母は、ただ一寸雑巾で前を隠したまま、鄭重なお辞儀をしたきり、少しも悪びれた様子を示さなかった。またこの伯母は、主人がたまに帰って来てもがみがみ・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫