・・・実に済まぬことをした想いが執拗に迫り、と金の火の粉のように降り掛るのであった。しかも、悲劇の人だ。いや、坂田を悲劇の人ときめてかかるのさえ無礼であろう。不遜であろう。この一月私の心は重かった。 それにもかかわらず、今また坂田のことを書こ・・・ 織田作之助 「勝負師」
・・・読んでみたい本はいくらでもあるが、時間と金との欠乏を考えるために、めったに買って読む事はない。ただいろいろの学者の名前と本の名前をひとわたり見るだけで満足する場合が多い。だれかが「過去の産出物の内で、目に見られ、手に触れる事のできる三つのも・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・さかんな若い人々、レーニンが云っているように向上心にもえ、階級の武器として、あらゆる知識をもちたいと思っている優秀な労働者たちが、その知識慾を餌じきにされて、きたならしい饒舌、ダイジェスト文化に、時間と金を吸いとられ、頭脳をかきまわされるの・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・社会のために行われている男女の勤労というものの価値が時間と金にだけ換算される時代がすぎて、もっと人間の社会生活の組織という点から高く評価されるようになれば、婦人の職業も、もっと人間的生活と統一したものとして改善されてゆくと信じます。〔一・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・日本婦人協力会というような、戦争協力者の集りのような婦人団体は、せめて彼女らが女性であるという本然の立場に立って、時間と金とを、そのような母と子とのために現実性のある功献に向けるべきであると、警告すべきであった。日本婦人協力会には、検事局の・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ この劇中劇ではソヴェト同盟の劇場でも、小道具なんかに凝りすぎ、ウンと金をかけてしまったのを、管理局からやって来た役人へは胡魔化して報告する場面その他、見物が笑い出すところは相当ある。 空想的な扮装したレヴューの土人みたいな「赤紫島・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・何処かで人間らしいあったかい人づきあいを欠いて、やっとこさと金を溜めて、どうやら家を建てるより子供の教育だ、立派な子孫を残すために、小さい碌でもない財産を置くより子供の体にかけようと熱心に貯金していたら、それがどうでしょう、このごろは金の値・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・ブルジョア演劇の、必要以上にでかでかと金をかける舞台装置や女優の衣裳への堕落した習慣に反対して云われた言葉だ。メイエルホリドも、旧いブルジョア風の、美観は、彼の明暗のきつい構成派の舞台の上から、追っぱらって来た。「D《デー》・E《エー》・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・そして、愛するYが、時間と金とを魔術のように遣り繰る技能に、一段の研磨の功を顕しますように。〔一九二六年八月〕 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・女は時間と金とがあって、男より読書している。そのために、婦人が社会に働きかけてゆく力は非常に根づよい。そういわれている。けれども、こまかく考えてみれば、時間と金とが男よりも多いといわれているアメリカの読書する婦人たちのうちのはたして何割が、・・・ 宮本百合子 「婦人の読書」
出典:青空文庫