・・・こう思った渠は一種の恐怖と憧憬とを覚えた。戦友は戦っている。日本帝国のために血汐を流している。 修羅の巷が想像される。炸弾の壮観も眼前に浮かぶ。けれど七、八里を隔てたこの満洲の野は、さびしい秋風が夕日を吹いているばかり、大軍の潮のごとく・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・そうして序破急と言いあるいは起承転結と称する東洋的モンタージュ手法がことごとく映画編集の律動的原理の中にその同型を見いだすのである。 要するにこれらのモンタージュの要訣は、二つの心像の識閾の下に隠れた潜在意識的な領域の触接作用によってそ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・もなんらの事件を示さず、ただこの海産動物につながる連想の活動を刺激することによって「憧憬のかすみの中に浮揺する風景や、痛ましく取り止めのつかない、いろいろのエロチックな幻影や、片影しか認められないさまざまの形態の珍しい万華鏡の戯れやが、不合・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・の岩波本を活動帰りの電車の中ででも少しばかりのぞいて見れば、このごろ舶来のモンタージュ術と本質的に全く同型で、しかもこれに比べて比較にならぬほど立派なものが何百年前の日本の民衆の間に平気で行なわれていたことを発見して驚くであろう。ウンター・・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・話は六かしくて大抵は分からなかったが、ほんのわずかばかり分かることが無限の興味と刺戟を与え、そうして分からない大部分への憧憬と知識慾をそそるのであった。それよりも、先生方や先輩達の、本当に学問に余念のない愉快な態度が嬉しかった。今はもう皆故・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・それで試みに同型の疑いのある火山名を次ページの表に列挙して将来の参考に供しておきたいと思うのである。中には現在の形での意味がかなり明白だと思うのがあってもかりに除かないで採録しておくことにする。第一表アソ・アサマ・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・れにしても、たとえば海門岳が昔は開聞でヒラキキと呼ばれ、ヒラキキ神社があるなどと言われるとちょっと迷わされるが、よくよく考えてみるとむしろカイモンが始めであろうとも考えられる節があり、千島のカイモンと同系と考えるほうがよさそうにも思われ、少・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・一片の麩を争う池の鯉の跳躍への憧憬がラグビー戦の観客を吸い寄せる原動力となるであろう。オリンピック競技では馬やかもしかや魚の妙技に肉薄しようという世界じゅうの人間の努力の成果が展開されているのであろう。 機械的文明の発達は人間のこうした・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・一片の麩を争う池の鯉の跳躍への憧憬がラグビー戦の観客を吸い寄せる原動力となるであろう。オリンピック競技では馬や羚羊や魚の妙技に肉薄しようという世界中の人間の努力の成果が展開されているのであろう。 機械的文明の発達は人間のこうした慾望の焔・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・和歌の上の句と同型だからというのも一つの説明にはなるが、それとは独立にも五七五のほうが短詩の形式としてすぐれていると思われる理由もなくはない。初五が短いためにそのあとでちょっとした休止の気味があって内省と玩味の余裕を与え、次に来るものへの予・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
出典:青空文庫