・・・各論文は、当時の文学的動向に対して常に緊要と認められた問題にふれているばかりでなく、プロレタリア文学の若き一人の支持者として「『敗北』の文学」を書き、又「過渡時代の道標」を書いた筆者自身が、かかる急速な左翼文化・文芸運動の波の裡にあって、強・・・ 宮本百合子 「『文芸評論』出版について」
・・・円本時代に頻出した作家たちの海外漫遊は、ある一部の日本の作家達の経済的向上を語ったと同時に、微妙な独特性でその後におけるそれらの作家達の社会的動向に影響を及ぼした。 一九二九年以来、世界の事情は急変した。久米正雄氏が嘗て美しい夫人を伴っ・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・光の針束がザクリと瞳孔をさし、頭痛がした。 みのえは、「ああくたびれちゃった!」 薬罐を置いて、油井の横へ、ぺたんと坐った。「――御苦労さま」 お清は、生真面目な顔と様子で番茶を注ぎ出した。その真面目さが、みのえを擽った・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・ 市之進がお国の自殺を見たときの詞は、実に修辞の妙を極めて居るから、少し抜いて同好の士に示してやりたい。曰く「旦、御新造、やれまツ、自、害か、馬ツ、何といふ、いけませんか、療治は、助かりませんかな、やれ、もツ、こんな綺麗な首に、こ、こん・・・ 宮本百合子 「無題(六)」
・・・私はこうした立場から終戦後の文化動向に関する一般報告を文化、芸術の面から行いたいと思う。〔一九四七年七月〕 宮本百合子 「明瞭で誠実な情熱」
・・・ある人々の主観の中での昂りでなく、人間生活の歴史的動向に沿うて上昇し発展されなければなるまい。子供を愛すことも出来ないで何のヒューマニズムぞやと云いすてるところから、今日人々が再び、子供を愛すとはどういうことなのだろう、ヒューマニズムとはど・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
こんど同行する湯浅芳子さんは七月頃既に旅券が下附されていたのだが、私が行くとも行かぬともはっきり態度が決らなかったので湯浅さんも延び延びになっていたのです。然し私もロシヤへは以前から行って見たい希望を持っていたのです。行く・・・ 宮本百合子 「ロシヤに行く心」
・・・ 文学の同好会のような集りへ、工場へ働いている娘さんその他の職場で働いている娘さんが来る。めいめい、何かを求めている心で集っているのだけれど、そういうとき、ごく一般的な文学談を、皆が同じようにやれるということで、現実に安んじない娘さんた・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・そういう勉強をしたい若い女性達はこの頃、学校を開いたり、自分達の職場の中で、集会を組織したり音楽や演劇、文学の研究会や同好会をこしらえています。 労働組合というものは、働く人の生活の全面にわたる幸福を、たかめるためにあるのですから、待遇・・・ 宮本百合子 「若人の要求」
・・・親切な町年寄は、若し取り逃がしてはならぬと云って、盗賊方二人を同行させることにした。町で剣術師範をしている小川某と云うものも、町年寄の話を聞いて、是非その場に立ち会って、場合に依っては助太刀がしたいと申し込んだ。 九郎右衛門、宇平の二人・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫