・・・島で銅鑼がだるそうにぼんぼんと鳴り椰子の木もパンの木も一ぱいにからだをひろげてだらしなくねむっているよう、赤い魚も水の中でもうふらふら泳いだりじっととまったりして夢を見ているんだ。その夢の中で魚どもはみんな青ぞらを泳いでいるんだ。青ぞらをぷ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・(銅鑼左手より、特務曹長並に兵士六、七、八、九、十 五人登場、一列、壁に沿いて行進、右隊足踏みつつ挙手の礼 左隊答礼。特務曹長「もう二時なのにどうしたのだろう、バナナン大将はまだ来ていないストマクウオッチはもう十・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・―― 間もなく食事を知らせる銅鑼が鳴った。色とりどり実にふんだんな卓上の盛花、隅の食器棚の上に並べられた支那焼花瓶、左右の大聯。重厚で色彩が豊富すぎる其食堂に坐った者とては、初め私達二人の女ぎりであった。人間でないものが多すぎる。其故、・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・すると、幾許もなく、建物の一隅から素晴らしい銅鑼の音が起った。がらんとした建物じゅうにはびこる無気力な静寂を、震駭させずには置かないという響だ。食事の知らせである。 がっしり天井の低い低い茶っぽい食堂の壁に、夥しく花鳥の額、聯の類が懸っ・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ ロザリーは、現代の女性が持ち得る最上の幸福を以て十年の間に、ハフ、ドラ、ベンジャミン三人の子供の母となりました。 勿論この間には、多少生活感情上の暗闘がなかった訳ではありませんが、彼女は、稀な美貌と事務的敏腕を兼備し、その上、著名・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫