・・・図――ですか。図どりが中々巧妙じゃありませんか。その上明暗も相当に面白く出来ているようです。」 子爵は小声でこう云いながら、細い杖の銀の握りで、硝子戸棚の中の絵をさし示した。私は頷いた。雲母のような波を刻んでいる東京湾、いろいろな旗を翻・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・山の林に鳴く、もずや、ひよどりでさえ、こんないい声は出し得なかったので、長吉は、ぼんやりと、その音のする方を見ると、山へ登ってゆく道を、赤い旗を立て、青い着物をきた人たちが列をつくって歩いてゆきました。そして、その後から、にぎやかな子供たち・・・ 小川未明 「谷にうたう女」
・・・取りどりの評判。製作物を出した生徒は気が気でない、皆なそわそわして展覧室を出たり入ったりしている。自分もこの展覧会に出品するつもりで画紙一枚に大きく馬の頭を書いた。馬の顔を斜に見た処で、無論少年の手には余る画題であるのを、自分はこの一挙に由・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・中流より石級の方を望めば理髪所の燈火赤く四囲の闇を隈どり、そが前を少女の群れゆきつ返りつして守唄の節合わするが聞こゆ。』 その次が十一月二十六日の記、『午後土河内村を訪う。堅田隧道の前を左に小径をきり坂を越ゆれば一軒の農家、山の麓に・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・を見ても「ひよどり」を見ても「からす」と言います。おかしいのは、ある時白さぎを見て「からす」と言ッたことで、「さぎ」を「からす」に言い黒めるという俗諺が、この子だけにはあたりまえなのです。 高い木のてっぺんで百舌鳥が鳴いているのを見ると・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・園のれいの甘酒屋で、はらみ猫、葉桜、花吹雪、毛虫、そんな風物のかもし出す晩春のぬくぬくした爛熟の雰囲気をからだじゅうに感じながら、ひとりしてビイルを呑んでいたのであるが、ふと気がついてみたら、馬場がみどりいろの派手な背広服を着ていつの間にか・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・例えば、私が、いま所謂先輩たちの悪口を書いているこの姿は、ひよどり越えのさか落しではなくて、ひよどり越えのさか上りの態のようである。岩、かつら、土くれにしがみついて、ひとりで、よじ登って行くのだが、しかし、先輩たちは、山の上に勢ぞろいして、・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ところがそれを実践にうつす段どりになると彼はきわめて安直に、粗末に、非組織的に行動することしかなし得ない。 児童たちの窓ふき作業ぶりを観察して、たちどころに小学教育の基礎と方法とは労作に結びついた教育でなければならぬという社会主義教育の・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・などでも、この社会で受身な負担のにない手である女の苦しい感情が母性愛といういろどりで描かれている。こういう映画が外国でも人々の涙を誘うのであって見れば、そこでも女の生活は、恋愛の面においてもいろいろの苦しいものを持っていることが察せられる。・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・そして、これは優等生の一人をつくる第一歩であり、優良社員をつくる一つの道であり、けちな面白みのない人間が一人ふやされゆく道どりでもある。 童心のきよらかさとはどういうものだろう。子供はわるいことをする。ひどいこと、すごいこと、そのど・・・ 宮本百合子 「子供の世界」
出典:青空文庫