・・・には、子供が大人の生活に混ってくる道どりやそこでの日常的な労作への結合の必要を暗示している作者の目がある。この作者としてこの「村の月夜」は第一歩の仕事であり、作品の内容も従来のお伽噺とは全く異った現実日常生活からの面白いお話への試みが示され・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・元来シェストフの不安と云われるものは理性への執拗な抗議、すべて自明とされるものに対する絶望的な否定に立って、現実に怒り、自由に真摯な探求を欲することを彼の虚無の思想の色どりとしているのであるから、不安を脱出しようという精神発展の要因は含まれ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・どれ一つとってみても、日本の民主化と云われている社会現実の上に、幾重にも折りたたまっている封建の野蛮と無智がおそろしく身に迫る事件ばかりだが、なかに二人のやしない子を育てる苦しさから配給の二重どりしていたのを告発され、懲役になっている中年の・・・ 宮本百合子 「再版について(『私たちの建設』)」
・・・発見した物資を、その場で人民がわけて、その責任は人民管理委員会に負わされるという段どりは、この大事な発展的な人民のための、人民のつくる委員会として幼稚なやりかたであろう。 ごたごたに誘い出される暴力についても、人民自主のためには十二分の・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・チビは、そこへのび上ってね、後から急き立てられながら、欲しい劇場の日どりと坐席の列番号をのべたてる。「売れきれです」「それは三階の後から二番目の席しかありません」そんなことでやっと二箇所の切符が買える段になって、窓口の女が云うんだ。「手帳を・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・男女相剋の図どりも、日本ではストリンドベリーのそれとは全く異った地盤の上に発生している筈ではないのだろうか。 そこから云えば、一郎がたとえ「一撃に所知を亡う」ことに主観の上で成功したとしても、作者が彼とともに掴もうとする人間本心の課題と・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・そういう事情があると思いもそめず、家賃が手頃なのや一人暮しに快適な間どりの工合やらにひかれて契約した。そして引越したら、二三日で、溌剌騒然たる小学校の賑わいが、別して朗々たるラウド・スピーカアの響きとともに、朝から夕刻まで、崖上に巣をかけた・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・『地上に待つもの』は、単に山田さんの意義ある過去の道どりを私達の前に示すばかりでなく、日露戦争後、急速に日本に資本主義が発展しはじめた時代に少青年期を迎えた勤労階級の或る種の若者たちは、どのように階級的上昇をしようと焦ったか。而もその焦・・・ 宮本百合子 「『地上に待つもの』に寄せて」
・・・そういう人間の性格の確定の図どりの上に、はじめて、諸関係は益々紛糾し得るのであるし利害は益々錯雑し、近代そのものの複雑を示して展開する可能をもったのである。 ディケンズはクリスマス・カロールの中で、主人公をクリスマスの晩に転心させ、俄に・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
月の冴えた十一月の或る夜である。 二羽の鴨が、田の畔をたどりたどり餌を漁って居る。 収獲を終った水田の広い面には、茶筅の様な稲の切り株がゾクゾク並んで、乾き切って凍て付いた所々には、深い亀裂破れが出来て居る。 ・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
出典:青空文庫