・・・ こうした感情は日光浴の際身体の受ける生理的な変化――旺んになって来る血行や、それにしたがって鈍麻してゆく頭脳や――そう言ったもののなかに確かにその原因を持っている。鋭い悲哀を和らげ、ほかほかと心を怡します快感は、同時に重っ苦しい不快感・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・そして、戦争によって無知にされ、価値判断を抹殺された今日の若い人々の間に、こういう信じがたい感情の鈍磨があることも、私たちは十分勘定にいれなければならないと思います。民主主義文学というものにしろ、日本の民主主義の本質が示しているとおり、その・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・この種の享楽の能力は、嗅覚と味覚の鈍麻した人が美味を食う時と同じく、零に近いほどに貧弱である。 放蕩者は一般に享楽人と認められる。しかし放蕩者のうちに右のごとき貧弱な享楽人の多いことは疑えない。芸妓の芸が音曲舞踊の芸ではなくして枕席の技・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・陳腐なるものは生命を持たないとする固定観念に捉われたものは、まずその鈍麻した感覚をゆり起こして自らの殻を悟るがいい。そうしてその殻を破るために鉄槌を振るうがいい。その時に初めて偶像再興に対する新しい感覚が目ざめて来るだろう。 しかし予は・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫