・・・それでいて、腰の矢立はここのも同じだが、紺の鯉口に、仲仕とかのするような広い前掛を捲いて、お花見手拭のように新しいのを頸に掛けた処なぞは、お国がら、まことに大どかなものだったよ。」「陽気ね、それは。……でも、ここは近頃の新開ですもの。お・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・おむつをきらう赤ん坊のようだ。仲仕が鞭でしばく。起きあがろうとする馬のもがきはいたましい。毛並に疲労の色が濃い。そんな光景を立ち去らずにあくまで見て胸を痛めているのは、彼には近頃自虐めいた習慣になっていた。惻隠の情もじかに胸に落ちこむのだ。・・・ 織田作之助 「馬地獄」
・・・ 新助は仲仕を働き、丹造もまた物心つくといきなり父の挽く荷車の後押しをさせられたが、新助はある時何思ったか、丹造に、祖先の満右衛門のことを語ってきかせた。 兄姉の誰もがまだ知らなかったこの話を、とくにえらんで末子の自分に語ってくれた・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・大川は港湾労働者で、仲仕をしていた。おかみさんはそれを聞くと、お前の母に少し気兼ねしたように、抱いていた自分の子供に頬ずりをした。 窪田さんはこう云っているの。――監獄では大体にやっぱり労働者出身のものが、******して、****・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・――その製粉機会社の主人ってのが、仲仕上りで、金なんぞ一文だって只出すという奴じゃあないんです。――厭な顔してね、何処が悪いんだって訊くの。おなかが痛いって寝てるって云うと、幾何いるんだ、十円下さい、十円なんているまいって云うから、今時医者・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・ 力仕事をするひとたちは、この頃五度ぐらい食べないとやれないそうだ。仲仕がトラックにのる仕事だと大変よろこぶという実際の例がある。トラックに乗っている間はともかく腹が空かないから。 おなかが空いたときの顔は誰しも些か険相で、男のひと・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
出典:青空文庫