・・・もっとも風中と保吉とは下戸、如丹は名代の酒豪だったから、三人はふだんと変らなかった。ただ露柴はどうかすると、足もとも少々あぶなかった。我々は露柴を中にしながら、腥い月明りの吹かれる通りを、日本橋の方へ歩いて行った。 露柴は生っ粋の江戸っ・・・ 芥川竜之介 「魚河岸」
・・・もっとも風中と保吉とは下戸、如丹は名代の酒豪だったから、三人はふだんと変らなかった。ただ露柴はどうかすると、足もとも少々あぶなかった。我々は露柴を中にしながら、腥い月明りの吹かれる通りを、日本橋の方へ歩いて行った。 露柴は生っ粋の江戸っ・・・ 芥川竜之介 「魚河岸」
・・・その弟の主水重昌は、慶長十九年大阪冬の陣の和が媾ぜられた時に、判元見届の重任を辱くしたのを始めとして、寛永十四年島原の乱に際しては西国の軍に将として、将軍家御名代の旗を、天草征伐の陣中に飜した。その名家に、万一汚辱を蒙らせるような事があった・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・その弟の主水重昌は、慶長十九年大阪冬の陣の和が媾ぜられた時に、判元見届の重任を辱くしたのを始めとして、寛永十四年島原の乱に際しては西国の軍に将として、将軍家御名代の旗を、天草征伐の陣中に飜した。その名家に、万一汚辱を蒙らせるような事があった・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・あるいは商売附合いの宴会へも父親の名代を勤めさせる――と云った具合に骨を折って、無理にも新蔵の浮かない気分を引き立てようとし始めました。そこでその日も母親が、本所界隈の小売店を見廻らせると云うのは口実で、実は気晴らしに遊んで来いと云わないば・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・あるいは商売附合いの宴会へも父親の名代を勤めさせる――と云った具合に骨を折って、無理にも新蔵の浮かない気分を引き立てようとし始めました。そこでその日も母親が、本所界隈の小売店を見廻らせると云うのは口実で、実は気晴らしに遊んで来いと云わないば・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・…… 名代である。 二 畠一帯、真桑瓜が名産で、この水あるがためか、巨石の瓜は銀色だと言う……瓜畠がずッと続いて、やがて蓮池になる……それからは皆青田で。 畑のは知らない。実際、水槽に浸したのは、真蒼な西・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・…… 名代である。 二 畠一帯、真桑瓜が名産で、この水あるがためか、巨石の瓜は銀色だと言う……瓜畠がずッと続いて、やがて蓮池になる……それからは皆青田で。 畑のは知らない。実際、水槽に浸したのは、真蒼な西・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・ 且つ仕舞船を漕ぎ戻すに当っては名代の信者、法華経第十六寿量品の偈、自我得仏来というはじめから、速成就仏身とあるまでを幾度となく繰返す。連夜の川施餓鬼は、善か悪か因縁があろうと、この辺では噂をするが、十年は一昔、二昔も前から七兵衛を知っ・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ 且つ仕舞船を漕ぎ戻すに当っては名代の信者、法華経第十六寿量品の偈、自我得仏来というはじめから、速成就仏身とあるまでを幾度となく繰返す。連夜の川施餓鬼は、善か悪か因縁があろうと、この辺では噂をするが、十年は一昔、二昔も前から七兵衛を知っ・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
出典:青空文庫