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・・・ところが或る朝、突然刺を通じたので会って見ると、斜子の黒の紋付きに白ッぽい一楽のゾロリとした背の高いスッキリした下町の若檀那風の男で、想像したほど忌味がなかった。キチンと四角に坐ったまま少しも膝をくずさないで、少し反身に煙草を燻かしながらニ・・・
内田魯庵
「斎藤緑雨」
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・・・実業熱が長じて待合入りを初めてから俄かにめかし出したが、或る時羽織を新調したから見てくれと斜子の紋付を出して見せた。かなり目方のある斜子であったが、絵甲斐機の胴裏が如何にも貧弱で見窄らしかったので、「この胴裏じゃ表が泣く、最少し気張れば宜か・・・
内田魯庵
「二葉亭余談」