・・・「とうさんをおこらせることが、とうさんのからだにはいちばん悪いんだぜ。それくらいのことがお前たちにわからないのか。」 それを私が寝ながら言ってみせると、次郎や三郎は頭をかいて、すごすごと障子のかげのほうへ隠れて行ったこともある。・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・「とうさんをおこらせることが、とうさんのからだにはいちばん悪いんだぜ。それくらいのことがお前たちにわからないのか。」 それを私が寝ながら言ってみせると、次郎や三郎は頭をかいて、すごすごと障子のかげのほうへ隠れて行ったこともある。・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・「私のいうことをお聞きなさい。悪いことは言いません。」 こう言ってしきりにとめましたが、ウイリイはほしくて/\たまらないものですから、馬のいうことを聞かないで、とうとう飛び下りてひろいました。すると、その一本だけでなく、ついでに前の・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・「私のいうことをお聞きなさい。悪いことは言いません。」 こう言ってしきりにとめましたが、ウイリイはほしくて/\たまらないものですから、馬のいうことを聞かないで、とうとう飛び下りてひろいました。すると、その一本だけでなく、ついでに前の・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・ほんにほんに憎いったら、憎いったら、憎いったらない。そうしてじいっとして坐っていて落ち着き払って、黙っているのが癪に障るわ。今の月が上弦だろうが下弦だろうが、今夜がクリスマスだろうが、新年だろうが、外の人間が為合せだろうが、不為合せだろうが・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・お前さんの意地の悪いのも、手負いの意地の悪いのと同じ事だわ。わたしはお前さんを憎んでやろう憎んでやろうと思うのだけれど、どうも憎むことは出来ないわ。兎に角お前さんはちびのアメリイちゃんだわ。あの人との関係なんぞも、実はどうでも好いわ。それが・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・ 昨年、九月、甲州の御坂峠頂上の天下茶屋という茶店の二階を借りて、そこで少しずつ、その仕事をすすめて、どうやら百枚ちかくなって、読みかえしてみても、そんなに悪い出来ではない。あたらしく力を得て、とにかくこれを完成させぬうちは、東京へ帰る・・・ 太宰治 「I can speak」
・・・ 昨年、九月、甲州の御坂峠頂上の天下茶屋という茶店の二階を借りて、そこで少しずつ、その仕事をすすめて、どうやら百枚ちかくなって、読みかえしてみても、そんなに悪い出来ではない。あたらしく力を得て、とにかくこれを完成させぬうちは、東京へ帰る・・・ 太宰治 「I can speak」
・・・さびしい悲しい夕暮れは譬え難い一種の影の力をもって迫ってきた。 高粱の絶えたところに来た。忽然、かれはその前に驚くべき長大なる自己の影を見た。肩の銃の影は遠い野の草の上にあった。かれは急に深い悲哀に打たれた。 草叢には虫の声がする。・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・よほど悪いのか」 「苦しいです」 「それア困ったナ、脚気では衝心でもすると大変だ。どこまで行くんだ」 「隊が鞍山站の向こうにいるだろうと思うんです」 「だって、今日そこまで行けはせん」 「はア」 「まア、新台子まで行・・・ 田山花袋 「一兵卒」
出典:青空文庫