・・・外聞の悪いことをお言いなさんなよ」「小万さん、お前も酔ッておやりよ。私ゃ管でも巻かないじゃアやるせがないよ。ねえ兄さん」と、吉里は平田をじろりと見て、西宮の手をしかと握り、「ねえ、このくらいなことは勘忍して下さるでしょう」「さア事だ・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・だから悪い事をしては苦悶する。……為は為ても極端にまでやる事も出来ずに迷ってる。 そこでかれこれする間に、ごく下等な女に出会った事がある。私とは正反対に、非常な快活な奴で、鼻唄で世の中を渡ってるような女だった。無論浅薄じゃあるけれども、・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・だから悪い事をしては苦悶する。……為は為ても極端にまでやる事も出来ずに迷ってる。 そこでかれこれする間に、ごく下等な女に出会った事がある。私とは正反対に、非常な快活な奴で、鼻唄で世の中を渡ってるような女だった。無論浅薄じゃあるけれども、・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・これは少し気分が悪いからでございます。電信をお発し下すったなら、明後日午後二時から六時までの間にお待受けいたすことが出来ましょう。もうこれで何もかも申上げましたから、手紙はおしまいにいたしましょう。わたくしはきっと電信が参る事と信じています・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・これは少し気分が悪いからでございます。電信をお発し下すったなら、明後日午後二時から六時までの間にお待受けいたすことが出来ましょう。もうこれで何もかも申上げましたから、手紙はおしまいにいたしましょう。わたくしはきっと電信が参る事と信じています・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・暗の閾から朧気な夢が浮んで、幸福は風のように捕え難い。そこで草臥た高慢の中にある騙された耳目は得べき物を得る時無く、己はこの部屋にこの町に辛抱して引き籠っているのだ。世間の者は己を省みないのが癖になって、己を平凡な奴だと思っているのだ。(家・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・そしてそのじいっと坐っている様子の気味の悪い事ったらございません。死人のような目で空を睨むように人の顔を見ています。おお、気味が悪い。あれは人間ではございませんぜ。旦那様、お怒なすってはいけません。わたくしは何と仰ゃっても彼奴のいる傍へ出て・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・これほど考えて見ながら運坐の句よりも悪いとは余り残念だからまた考えはじめた。この時験温器を挟んで居る事を思い出したから、出して見たが卅八度しかなかった。 今度は川の岸の高楼に上った。遥に川面を見渡すと前岸は模糊として煙のようだ。あるとも・・・ 正岡子規 「句合の月」
・・・これほど考えて見ながら運坐の句よりも悪いとは余り残念だからまた考えはじめた。この時験温器を挟んで居る事を思い出したから、出して見たが卅八度しかなかった。 今度は川の岸の高楼に上った。遥に川面を見渡すと前岸は模糊として煙のようだ。あるとも・・・ 正岡子規 「句合の月」
・・・先生はその場所では誰のもいいとも悪いとも云わなかった。しばらくやすんでから、こんどはみんなで先生について川の北の花崗岩だの三紀の泥岩だのまではいった込んだ地質や土性のところを教わってあるいた。図は次の月曜までに清書して出すことにした。ぼ・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
出典:青空文庫