・・・そういうところに一言や二言で云いつくし現しつくせない若い精神の苦悩があるのではないだろうか。 この間安倍能成氏が一高の校長となったときの何かの談話で、現代の青年はさまざまの外面的な慰安を求める代り、友情に慰安を求めよ、という意味を云・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・告別式場の隅に佇んで、浄げな柩の方を猶も見守っていた時、久米さんが見え、二言三言立ちながら話した。 簡単な言葉であったが、私はその時今までのごたごたした心の拘りをすらりと抜け、自分がまともな心持で久米さんに物を云い、その顔を見たのを感じ・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・ 私達はせわしい中を大さわぎして会っても野原なんかに出かけて行ってよっかかりっこをしながら空を見て居て二言三言話したっきりで別れちゃう事だってあるんです。 でも妙なもんでそれでも満足するんです、 お互に。 篤はこんな事を・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ バルザックは、ユーゴオのようにギリシャ悲劇の教養を土台にして、その作品に美と獣性、淫蕩と清純な愛、我慾と献身という風な二元的な対位法を使い、ロマンティックな荘重さ、熱烈さ、高揚で、文体を整えることも出来なかった。バルザックはこれらの輝・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・かつてした人間、今日は情勢に押されてその活動の自由を失っている人間の人間性というものを切り離して、運動の性質、その場面でのぞましいものと考えられている人間の統一体とは寧ろ対立的な関係にあるものとして、二元的に眺め、最後の軍配を弱く悲しく矛盾・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・と亀井は書いているが、労働者農民の権力樹立への闘争と民主主義獲得のための闘争とは二元的に並列するものでは絶対にない。日本におけるプロレタリア革命への現実的条件として民主主義革命はプロレタリア革命の有機的前駆をなすものであり、花とその苞の如き・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・ この点について、私は特に興味ふかく思うのであるが、ひところ或る種のプロレタリア文学運動の活動家が人間性というものの理解について陥り勝ちであった二元的見解をひっくりかえしたようなものが、今日まで極めて文壇的な雰囲気、折衝、感情錯綜の中に・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・観的にシチュエーションをきめて物語を展開させられる探偵小説へ表現をもとめてゆく第一の理由は、今日の文化感覚のなかでまだ科学と文学とが、一方は非人間的な、純客観的なもの、一方は人間的な主観的なものという二元的観念の支配がつよく存在しているため・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・文学作品の創られてゆく過程を引用の文章のように二元的に見ることが不完全であるということは、過去数年来の刻苦によって、既に明らかにされていはしないだろうか。 現実の起伏の詳細と変化とを世界歴史の進歩の方向において感じ、理解し、全的に描き出・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
・・・ひところ、良心的な人間の社会的任務というものが、その人々の専門の技術以外の社会的行動、政治的な行動に重点を置いて二元的に考えられていた時期があった。そういう行動の可能が周囲に見えなくなったので、人間としての良心的に生きる途を失ったような当惑・・・ 宮本百合子 「若き時代の道」
出典:青空文庫