・・・赤坊が人工栄養だし、泰子がああだし、お母さんは本当に二人の子供の間でキリキリまいをして居ります。したがって私はどうしても家のことに手を出さずにはいられなく、そのため過労してパニックも生理的におこったのですが、よくよく考えて、もう余りつかれな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・にしろ、女の肉体の老いと社会的野心或は金銭の慾のくみ合わせが、その本質の陳腐さにかかわらず、作者の興味をひくのだろうかと、人工的な照明の下にあやつられている「絶壁」の男女の姿を眺めたにすぎなかったと思う。ところが、不思議なことに、その作品の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 合法的人工流産は、これ等数種の積極的条件の最後にあって、母性の擁護と秘密な罪悪の防止に役立てられている。 金髪のターニャひとりが、何か彼女の特別な理由で、このように広汎な社会連帯の上に、彼女の若き勤労婦人としての独立、恋愛の自由、・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ ジイドによれば、人工的に過度に生産その他を強化する必要からである。その必要が現実にあるとして、それならその必要はどこから生じているのであろうか。ジイドは、信じられぬ程の偏執で、その必要は、スターリンの犠牲であり、欺かれたもの達であ・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・左翼の運動は日本の資本主義社会の特殊な人工培養性に従って全く独得な歴史を持つものであるが、プロレタリア文学運動の消長もこの全体的な特徴に影響を受けている。客観的情勢が満州事件と同時に急転した。このことと団体に被った被害の甚大であったこと、他・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・在るものは、権力の強制と、その強制を可能ならせている日本の軍国的な封建的な社会の雰囲気と、知識人たる自覚を放棄した一民衆としての忍苦しかなかった。似非学者、似非作家、似非インテリゲンツィアの恥知らずな戦争協力にたいして、声に出せない眼をきつ・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・いかにすれば珍しい変種ができるだろうかとか、いかにすれば予定の時日の間に注文通りの果実を結ぶだろうかとか、すべてがあまりに人工的である。 天を突こうとするような大きな願望は、いじけた根からは生まれるはずがない。 偉大なものに対する崇・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
出典:青空文庫