・・・昔からこの刻限を利用して、魔の居るのを実験する、方法があると云ったようなことを過般仲の町で怪談会の夜中に沼田さんが話をされたのを、例の「膝摩り」とか「本叩き」といったもので。「膝摩り」というのは、丑満頃、人が四人で、床の間なしの八畳座敷・・・ 泉鏡花 「一寸怪」
・・・わたくしは千住の大橋をわたり、西北に連る長堤を行くこと二里あまり、南足立郡沼田村にある六阿弥陀第二番の恵明寺に至ろうとする途中、休茶屋の老婆が来年は春になっても荒川の桜はもう見られませんよと言って、悵然として人に語っているのを聞いた。 ・・・ 永井荷風 「放水路」
・・・或は沼田に至り、螺蛤を啄む。螺蛤軟泥中にあり、心柔にゅうなんにして、唯温水を憶う。時に俄に身、空中にあり、或は直ちに身を破る、悶乱声を絶す。汝等これを食するに、又懺悔の念あることなし。 斯の如きの諸の悪業、挙げて数うるなし。悪業を以ての・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・去年の秋の作品であるが、この粗大な、民族的類型化を卓抜な科学者であるという沼田博士に云わしめているのである。アメリカに移民として働いている日本人の不正入国をしたものが何より恐れているのは、アメリカ人であるか、ニグロであるか、或は同じ日本人で・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・われわれの文学において、題材だけで作品の価値が決定せられるということはないのであるけれども、現在の情勢との闘いにおいて、われわれの文学を健全な発展へ導こうとすれば、『文学評論』の座談会で沼田氏その他が強調しているように、作家の目は常に労働者・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
出典:青空文庫