・・・ 一八六一年の農奴解放で一杯くったロシアの貧農は、生存権を守るために「旦那」に対して全く懐疑的にならずにいられなかった。二十世紀初頭に、ロシアの地主は搾取の面から、おくれたロシアの農場の資本主義経営、労働の合理化を考えて、農場へドイツや・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・今は有名な桜の園の主となったロパーヒンの満悦、親父は農奴であったが、自分は地主になることになったロパーヒンの亢奮。ラネフスカヤは、泣く。桜の園――若かった生活のすべての思い出――母、川で溺れた自分の子供……すべては桜の園とともに自分から去っ・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・あるいは、奈良朝時代、使役する奴隷や農奴の脱走を防ぐために、いれずみをした、そのような何かが必要になって来たというのだろうか。 たしかに、東京はおそろしいところになっている。上海がかつて国際犯罪都市であったように、ブダペストが国際スパイ・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・作品の中で人間性の濃度を高めるためにこの作者は意企的に異常性格を持った嘉門とその妻松子、娘息子をとり来って、殆どグロテスクな転落の絵図をくりひろげたが、この作品の世界に対して作者は責任を感じていず、登場している私という中枢の人物は、本質的に・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・一八八三年、六十五歳の時脊髄癌を病ってパリで死ぬまで、ツルゲーネフは有名な農奴解放時代の前後、略三十年に亙るロシアの多難多彩な社会生活と歴史の推進力によって生み出される先進的な男女のタイプとを、世界的に知られている小説「猟人日記」、「ルージ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 表面上は立派に自由の権利を持って居る様では有るけれ共、内実は、まるでロシアの農奴の少し良い位で地主の畑地を耕作して、身内からしぼり出した血と膏は大抵地主に吸いとられ、年貢に納め残した米、麦、又は甘藷、馬鈴薯、蕎麦粉などを主要な食料にし・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・が、それはゴーチェが異国情緒を求めてスペインへ行ったのとはちがい、サルジニアに在る銀鉱で儲けようと思いついたからであったし、南露には後に結婚した彼の愛人ハンスカ夫人が三千人もの農奴のついたそこの領地へ行っていたからである。 バルザックは・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・八〇年代の農奴制度の偽瞞的な廃止やその後に引きつづいて起った動揺に対して行われた弾圧のために消極的になった急進的な若い分子は、この饑饉の惨状の現実をモメントとして民衆悲惨の問題を再びとりあげて立った。ゴーリキイがまだ二十一歳ぐらいでニージュ・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・、題材やテーマに対する作者の態度に、客観的な意味での地方における文化の或る時代への批判が存在していたというよりは、むしろああいう調子であの作品が書かれたそのこと全体にこそ、地方の文化というものの性格の濃度が滲み出しているものであったろうと考・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・ アレキサンドル二世が形式的な農奴解放を行ったのは一八六一年であった。ゴーリキイが生れた時分、農奴制そのものは廃止されていた。しかしながら、二百五十年間に亙ってロシアの大衆の生活を縛りつけていた封建性は実に深く日常の習慣に滲みこんで、家・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫