・・・いつも笑っていると云われるその日本の女の骨惜みしない心の顔は、自身の言葉として何をのぞみ何をもとめているだろう。私の命のなかにその声が響いていないと誰が云えよう。 更に十年経って、今日の世界の現実は、窮極における人間の理性というものを益・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・ 口の中でくりかえして男は今の今までもって居た、大きな貴い、たかい、なげうったのぞみを又くりかえしてひろい上げて見た又手ばなすのがおしくなって、愛の片はしをつまんで考えた。「己はそれほどの勇気もなければ、 あの女をつかまえて殺し・・・ 宮本百合子 「死に対して」
・・・ 終りにのぞみ、何心なく『文芸街』の頁を繰っていたら『九州文化』などいう雑誌の名も見え、東京で発行されているこの雑誌には各地方からの寄贈雑誌の名が示されている。地方で刊行されているそれぞれの雑誌は、相互に刊行物の活溌な交換批評のやりとり・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
三度めのメーデーが来る。ことしのメーデーはどんなメーデーになるだろう。お天気のよい日であることをのぞみたのしいメーデーの歌と行進とを期待する。去年は職場職場でなかなか趣向のこったプラカードや飾りものをもち出した。ブラス・バ・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
・・・ 日本の民主化をのぞみ、そのために努力する人民とその作家は、いまこそ、世界において侵略のモメントでばかり自己の存在を示してきた日本を、別のものにしようとしている。東洋における民主化の推進者、その参加者、平和の確保力の一つとしてあらせよう・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・新しい文学をのぞみ、それを生もうとする多くの人々に、民主主義文学運動というもの全体の、新しい可能性を知らせ、その大展望の上ですねてみたり、じぶくってみたりしてもはじまらないということを理解させてゆく努力が及ばなかった。『近代文学』のある人々・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・弁護士団の長老長野国助弁護人も「とくに検察団にのぞみたい」と「審理中に検察団はあたかも妨害になるような発言をされている」のは「裁判所を信任されていないことである」云々とたしなめた。 ニッポン・タイムスは、これらの状況を「茶番になった第二・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・それ等のものが、知性と云われるもののなかにみんな溶けこんでいて、事にのぞみ、場合に応じ、本人にとっては何か直感的な判断の感じ、或はどう考えてもそうするのが一番よいと思えるというような感情的な感じかたで、生活に作用してゆく。知性というものは抽・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・ そういう社会をのぞみ、信義をもち得る社会を求める心からバルザックは反対党――共和党に対して王党となったのか。 ユーゴーは共和党であった。そしてナポレオン三世の帝政布告に抗し二十年間亡命、一八七〇年普仏戦争による帝政崩壊後かえる。「・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・「久しぶりで、たっぷり炭をおこしてあげたいけれど、あんまりのぞみがないわ」「いいさ。寒けりゃいくらでも着られるだけ結構なもんだ」 ペンをもったなり口を利いていた重吉は、又つづきを書きはじめた。長い年月、ほんとうに温く、人間らしく・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫