・・・(ここではあらゆる望みがみんな浄められている。願いの数はみな寂められている。重力は互に打ち消され冷たいまるめろの匂いが浮動するばかりだ。だからあの天衣の紐も波立たずまた鉛直に垂 けれどもそのとき空は天河石からあやしい葡萄瑪瑙の板に変・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・それはみな霜を織ったような羅をつけすきとおる沓をはき私の前の水際に立ってしきりに東の空をのぞみ太陽の昇るのを待っているようでした。その東の空はもう白く燃えていました。私は天の子供らのひだのつけようからそのガンダーラ系統なのを知りました。また・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・「ええ、それをわたくしはのぞみます。けれどもそれはあなたはいよいよそうでしょう。正しく清くはたらくひとはひとつの大きな芸術を時間のうしろにつくるのです。ごらんなさい。向うの青いそらのなかを一羽の鵠がとんで行きます。鳥はうしろにみなそのあ・・・ 宮沢賢治 「マリヴロンと少女」
・・・ 嬉しい事だ、のぞみの満ち満ちた事だ。二人の精霊と精女とは若人のうす笑をしながら云って居る事をおどろきの目を見はってきいて居る。第三の精霊は頭をかるくふって遠くに流れて居る小川を見つめるといきなり張りのある響く声で、第三・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・あんなに歌の上では、自分の生活を呪ったり悲しんだりしているが、実生活の上では、まだ富の誇りに妥協して、二重な望みに生きているのだという気がして、私はいつでも、あの方の歌を拝見する度に、ある小さな不満を感じて居りました。が、今度の事件をみます・・・ 宮本百合子 「行く可き処に行き着いたのです」
・・・悧巧に、経済状態を考え、子等さえ過剰にしなければ、自分の情慾に、何のはじも感じないでよい、というような、物の考えかたを根本から立てなおす為、私共は、力のかぎり、あきらかな光明と、素朴な叡智とをのぞみ、求めて行かなければならないのです。平静に・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・つまり私たちが知識を愛し、それを身につけ、自分やひとの生活をゆたかにして何かの意味で人間の進歩に役立ってゆきたいと思っている日頃ののぞみは、こういう形でも具体化される一歩があろうというわけである。 若い婦人の感情と科学とは、従来縁の遠い・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・しかし、これらの名簿から消されながら生きているアメリカの、現実の有権者たちは、いくらかでもましな社会をのぞみ、そのためにましと思える候補者に投票した。 ダイジェストが失敗した一九三六年時代の世論調査では、ギャラップ博士の調査所が正確であ・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・この頃の社会の事情は女としての困難解決の方向を知っているひとでも目前に方法がつかないような特殊の苦痛がありますが、どうかその苦痛にまけたことを一つの自嘲的なポーズとせず日々の努力をのぞみます。〔一九三七年二月〕・・・ 宮本百合子 「現代女性に就いて」
・・・化をもっている方が御し易いという視点にたって大衆の文化を導いてゆく大衆に対する理解と、その社会を構成している多数の人々がだんだんましな生活をやってゆける方向に導かれなければ全体として社会の発展や幸福はのぞみ難いものであるとして大衆を見る観か・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
出典:青空文庫