・・・ ニューヨークで安ホテルを捜しあてたときに帳場に居たのっぽの番頭がやはりチューインガムを噛んでいた。そうして「イエース」というところを「イエーア」と云うのであった。 便所の扉がたけが低くて、中で用を足している人の顔こそ見えないが、非・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・ 五月に葉が生れかわると云う事やつつましげな輝きや、やたらに大きくのっぽに育たない事なんかが私の心を引いたのだ。 思いきって威張ってほこり顔な美くしさも時にはまたなく美くしいものだけれ共、ぶなの輝きが少しでも高ぶった気持をもって居た・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・若殿はのっぽでお出になるからなあ」 りよは顔を赤くした。「あの、これはわたくしので」縫っているのは女の脚絆甲掛である。「なんだと」叔父は目を大きくみはった。「お前も武者修業に出るのかい」「はい」と云ったが、りよは縫物の手を停めな・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫