・・・何しろのめのめと我々の前へ面をさらした上に、御本望を遂げられ、大慶の至りなどと云うのですからな。」「高田も高田じゃが、小山田庄左衛門などもしようのないたわけ者じゃ。」 間瀬久太夫が、誰に云うともなくこう云うと、原惣右衛門や小野寺十内・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・辱められ、踏みにじられ、揚句の果にその身の恥をのめのめと明るみに曝されて、それでもやはり唖のように黙っていなければならないのだから。私は万一そうなったら、たとい死んでも死にきれない。いやいや、あの人は必ず、来る。私はこの間別れ際に、あの人の・・・ 芥川竜之介 「袈裟と盛遠」
・・・早瀬 それでなくッてさえ、掏賊の同類だ、あいずりだと、新聞で囃されて、そこらに、のめのめ居られるものか。長屋は藻ぬけて、静岡へ駈落だ。少し考えた事もあるし、当分引込んでいようと思う。お蔦 遠いわねえ。静岡ッて箱根のもッと先ですか。貴・・・ 泉鏡花 「湯島の境内」
・・・ 水色の手巾を、はらりと媚かしく口に啣えた時、肩越に、振仰いで、ちょいと廻廊の方を見上げた。 のめのめとそこに待っていたのが、了簡の余り透く気がして、見られた拍子に、ふらりと動いて、背後向きに横へ廻る。 パッパッと田舎の親仁が、・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・ 卑怯な、未練な、おなじ処をとぼついた男の影は、のめのめと活きて、ここに仙晶寺の磴の中途に、腰を掛けているのであった。 二「ああ、まるで魔法にかかったようだ。」 頬にあてて打傾いた掌を、辻町は冷く感じた。・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・金公もそのままのめのめと嬶と二人で帰られめい。金公が定親分にちょっとあやまってね、それから嬶の頭を二つくらしたら、嬶の方は何が飛んだかなというような面をしていて、かえって親分が、何だ金公、おれの前で嬶を打つち法はあんめいってどなられて、二人・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・よくもまあ僕の前で、そんな阿呆くさい事がのめのめと言えたものだ。いまに、死ぬのは、お前のほうだろう。女は、へん、何のかのと言ったって、結局は、金さ。運転手さん、四谷で馬鹿がひとり降りるぜ。」 女の心を、いたずらに試みるものではありません・・・ 太宰治 「女類」
・・・ろは今でも辰之助の妹婿の山根に心が残っていたけれど、お絹に言わせると、金には切れ放れはよかったし、選びもおもしろい山根ではあったけれど、別れぎわが少し潔くない点があったので、その手前としても、おひろはのめのめ商売なぞしているのは厭だった。お・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫