・・・道幅二間ばかりの寂しい町で、と書いた軒燈が二階造の家の前に点ている計りで、暗夜なら真闇黒な筋である。それも月の十日と二十日は琴平の縁日で、中門を出入する人の多少は通るが、実、平常、此町に用事のある者でなければ余り人の往来しない所である。・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・月末なるべしと青年は答え、さればこの地もまたいつ帰り来て見んことの定め難く、また再び見ることかなうまじきやこれまた計り難ければ、今日は半日この辺りを歩みて一年と五月の間、わが慰めとなり、わが友となり、わが筆を教え、わが情を養いし林や流れや小・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・「彼の島の者ども、因果の理をも弁えぬ荒夷なれば、荒く当りたりし事は申す計りなし」「彼の国の道俗は相州の男女よりも怨をなしき。野中に捨てられて雪に肌をまじえ、草を摘みて命を支えたりき」 かかる欠乏と寂寥の境にいて日蓮はなお『開目鈔・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ しかし、これから、さき、なおどれだけ自分の意志の反してパルチザンを追っかけさせまわらされるか量り知れない自分にはうんざりせずにいられなかった。丈夫で勤務についている者は、いつまでシベリアにいなければならないか、そのきりが分らないのだ。・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・それもいいけれど、片道一里もあるところをたった二合ずつ買いに遣されて、そして気むずかしい日にあ、こんなに量りが悪いはずはねえ、大方途中で飲んだろう、道理で顔が赤いようだなんて無理を云って打撲るんだもの、ほんとに口措くってなりやしない。」・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・ 茶の間の柱のそばは狭い廊下づたいに、玄関や台所への通い口になっていて、そこへ身長を計りに行くものは一人ずつその柱を背にして立たせられた。そんなに背延びしてはずるいと言い出すものがありもっと頭を平らにしてなどと言うものがあって、家じゅう・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・私は、それについても、地平はだめだ、芸術家は、いつでも堂々としていたい、鼠のように逃げぐち計りを捜しているのでは、将来の大成がむずかしい、僕もそのうち、支那服を着てみるつもりである、など、ああ、そのころは、お互いが、まだまだ仕合せであったの・・・ 太宰治 「喝采」
・・・犬の心理を計りかねて、ただ行き当りばったり、むやみやたらに御機嫌とっているうちに、ここに意外の現象が現われた。私は、犬に好かれてしまったのである。尾を振って、ぞろぞろ後についてくる。私は、じだんだ踏んだ。じつに皮肉である。かねがね私の、ここ・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・筆者は、やはり人間は、美しくて、皆に夢中で愛されたら、それに越した事は無いとも思っているのでございますが、でも、以上のように神妙に言い立てなければ、或いは初枝女史の御不興を蒙むるやも計り難いので、おっかな、びっくり、心にも無い悠遠な事どもの・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 眼前の小利害にのみ齷齪せず、真に殖産工業の発達を計り、世界の進歩に後れぬようにしようと志す人は、もう少し基礎的科学の研究を重んじ、またこれを応用しようという場合には、少し気を永くしてあまりに急な成効を期待しないようにしなければならぬと・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
出典:青空文庫