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・・・僕は今かえって仕合せだと思ったが、また、別なところで、かれらの知らないうちにああいう社会にはいって、ああいう悪風に染み、ああいう楽しみもして、ああいう耽溺のにおいも嗅いで見たいような気がした。僕は掃き溜めをあさる痩せ犬のように、鼻さきが鋭敏・・・
岩野泡鳴
「耽溺」
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・・・月あかりのために、石ころや、笹の葉や、棒杙や、掃き溜めまで白く光っていた。「友だちもないようですね。」「ええ。みんなに悪いことをしていますから、もうつきあえないのだそうです。」「どんな悪いことを。」僕は金銭のことを考えていた。・・・
太宰治
「彼は昔の彼ならず」