・・・どうせ一晩泊りだもん――あっちじゃ伯母さんが来るだろうかねえ」「さあ」「来りゃいいのにね、そうすりゃこの間のことだってあのまんま何てことなくなっちゃっていいんだがね」「来るだろう」 空気枕に頭を押しつけこれ等の会話をききつつ・・・ 宮本百合子 「一隅」
・・・彼らが通過した後には何が残るでしょう。伯母さんたちの消息も全く不明です」と伝えている。 キュリー夫人の不幸な故国ポーランド、しかし愛と誇とによって記念されているポーランド。伯母というのは彼女の愛する姉たちである。スクロドフスキー教授の末・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・氏の描く世界が、従来多くの作家に扱われて来ている種類のインテリゲンツィアでなく、さりとてプロレタリア文学が描こうとする社会層でもなくて、半インテリゲンツィアとでも云われるような半ば明るみに半ば思想の薄暮に生きる人々の群であることも、見落せな・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・×さんは女のひとにいい友達がないからいけないのだろうって仰云って――方々に連れて行っていただいたりするのに×さんがいいだろうって仰云ったのですが、×さんは何だか伯母さんのような気がするから、本当に友達として対せるあなたに書いていただいたので・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・ 二人の女君は後室の妹君の娘達、二親に分れてからはこの年老いた伯母君を杖より柱よりたよって来て居られるもの、姉君を常盤の君、若やいだ名にもにず、見にくい姿で年は二十ほど、「『誘う水あらば』って云うのはあの方だ」とは口さがない召使のかげ口・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ ロンドンのパウンス伯母は、すぐイボッツフィールドに自身で来、ロザリーをあずかってロンドンで修業させてやることに定めました。インドには、フロラが行くことになりました。家には、ヒルダと長姉のアンナが残ることになったのですが、ロザリーは、そ・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ うめは、祖母の横に坐り、上眼づかいで伯母を見上げながら、にっとはにかみ笑いをした。おかっぱで、元禄の被布を着て、うめは器量の悪い娘ではなかったが、誰からも本当に可愛がられることのない娘であった。蒼白い顔色や、変にませた言葉づかいが、育・・・ 宮本百合子 「街」
・・・ トラファルガア広場のトーマス・クック本店横から二台の大型遊覧自動車が午後七時の薄暮をついて動き出した。 トーマス・クック会社名前入りの制帽をかぶった肥っちょの案内人が坐席から立ち上って「ここがオックスフォード通。只今通りすぎつ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・「宝船じゃ、宝船じゃ。」と云いながら秋三が一人の乞食を連れて這入って来るのが眼に留まった。「やかまし、何じゃ。」と彼女は云った。「伯母やん、結構なもんが着いたぞ、喜びやれ。」 勘次の母は店の間へ出て行って乞食の顔を見た。・・・ 横光利一 「南北」
・・・そこは伯母の家で、竹筒を立てた先端に、ニッケル製の油壺を置いたランプが数台部屋の隅に並べてあった。その下で、紫や紅の縮緬の袱紗を帯から三角形に垂らした娘たちが、敷居や畳の条目を見詰めながら、濃茶の泡の耀いている大きな鉢を私の前に運んで来てく・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫