・・・自然の条件に従って、発生し、醗酵するものゝみが、最も創意に富んだ形を未来に決定するのである。それ故に、機械主義的な構成に、また強権主義的な指導に、真の創造はあり得ないであろう。 人間は、意識的に、形態を定めることはできる。しかし、詩を作・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・を完膚なきまでに否定している一方、ジャン・ポール・サルトルがエグジスタンシアリスムを提唱し、最近巴里で機関誌「現代」を発行し、巻頭に実存主義文学論を発表している。エグジスタンシアリスムという言葉は、巴里では地下鉄の中でも流行語になっていると・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ 横堀筋違橋ほとりの餅屋の二階を月三円で借り、そこを発行所として船場新聞というあやしい新聞をだしたのは、それから一年後のことであった。俥夫三年の間にちびちび溜めて来たというものの、もとより小資本で、発行部数も僅か三百、初号から三号までは・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・私情で雑誌の発行を遅らせては済まないと、寺田はやはり律義者らしくいやいや競馬場へ出掛けた。ちょうど一競走終ったところらしく、スタンドからぞろぞろと引き揚げて来る群衆の顔を、この中に一代の男がいるはずだとカッと睨みつけていると、やあ済まん済ま・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・ すなわち学校、孤児院の経営、雑誌の発行、あるいは社会運動、国民運動への献身、文学的精進、宗教的奉仕等をともにするのである。二つ夫婦そらうてひのきしんこれがだいいちものだねや これは天理教祖みき子の数え歌だ。子を・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・第一号を発行した。これには、毎月欠かさず××の記事が掲載された。三十八年八月には、堺利彦の訳になるトルストイの日露戦争反対論が掲げられている。 かゝる事実は、この戦争が如何なる意義を持っていたかを説明する材料の一つとなり得るものであるが・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・換言すれば骨董は一種の不換紙幣のようなものになったので、そしてその不換紙幣の発行者は利休という訳になったようなものである。西郷が出したり大隈が出したりした不換紙幣は直に価値が低くなったが、利休の出した不換紙幣はその後何百年を経てなおその価値・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・「それは醗酵し易い麦飯を食って、運動が不足だからですよ。」 と、このお抱え医者は事もなげに云って、それでも笑った。 そのことがあってから、俺は屁の事について考えた。此処にいると、どんなに些細なことに対しても、二日も三日もとッくり・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・という可笑しな名前の同人雑誌を発行したことがあります。そのころ美術学校の塑像科に在籍中だった三男が、それを編輯いたしました。「青んぼ」という名前も、三男がひとりで考案して得意らしく、表紙も、その三男が画いたのですけれども、シュウル式の出・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・文章発見シ、世界ニ類ナキ銀鱗躍動、マコトニ間一髪、アヤウク、ハカナキ、高尚ノ美ヲ蔵シ居ルコト観破仕リ、以来貴作ヲ愛読シ居ル者ニテ、最近、貴殿著作集『晩年』トヤラム出版ノオモムキ聞キ及ビ候ガ御面倒ナガラ発行所ト如何ナル御作、集録致サレ候ヤ、マ・・・ 太宰治 「虚構の春」
出典:青空文庫